「末っ子」ITの高価な失敗

 執行役員会の面々のなかで、最も理解されていないのはCIO(最高IT責任者)だろう。その最大の理由は、CIOという職務があまりにも新しいことである。

 製造、財務、販売、マーケティング、エンジニアリングといった分野は、過去100年余りの間に広く理解される業務へと発展し、経営陣全員が理解できる語彙と運用原則が確立されてきた。一方、わずか40年前の1964年、〈IBM360〉の登場と共に生まれたIT分野は、人間で言えば、まだ思春期を迎える前といったところである。

 このような世代間ギャップの存在は、多くの組織において「親」である会社が、技術用語と経営用語との壁に阻まれ、「末っ子」の意図をさっぱり理解できずにいるという状況を意味している。

 多くの場合、経営陣はただ肩をすくめ、末っ子にたっぷりと小遣いを手渡し、見て見ぬふりをする。そして後になってから、最新流行の技術に法外な金額を支払わされたことに気づく。多くの企業は、このような問題に取り組む代わりに、末っ子を家から追い出して決着を図る。

 だからこそ大企業の多くで、ITが高価な失敗に終わっているのである。注文書はどこかに紛れ込み、顧客は問い合わせ番号に電話をかけても力になってもらえず、追跡システムも機能しない。

 実際、ガートナー・リサーチの調査によると、企業のIT予算の平均20%が所期の目的を果たしえない製品の購入に浪費されているという。つまり、全世界で5000億ドルが無駄遣いされていることになる。

 この手の浪費は、運輸、保険、通信、銀行、製造などの産業で最も目立つ。CIOが最善を尽くそうとしているにもかかわらず、経営陣の建設的な関与なしにITが運営されてきた直接的な結果にほかならない。

 ここ数年というもの、IT部門は社内のさまざまな部門からの要望を一生懸命汲み取ってきた。その過程でITシステムは「負の遺産」と化していったが、それでも大勢の人員が配置されてきた。

 どのITシステムも何百万というコードから成り立っているが、必ずしも互換性は保証されてはいない。各部門のデータは、それぞれ別々のデータベースに蓄積されていく。したがって、これらすべてのシステムを正常に機能させるだけで、ますます多くの資源が必要になる。