なぜトヨタばかりが「強い」といわれるのか

 トヨタ自動車は世界で最も語られてきた企業の一つである。その名高い生産方式の本質を知ろうというジャーナリストや研究者、また企業幹部の関心の的であった。

 それにはもっともな理由がある。トヨタは、品質、信頼性、生産性、コスト削減、売上高と市場シェアの成長率、そして株式の時価発行総額の面で、何度となくライバルたちを凌駕してきたからだ。

 2003年末時点で、売上高のみならず生産面でも、ダイムラー・クライスラーから北米第3位の自動車メーカーの座をもう少しで奪うところだった。グローバル市場のシェアを見ると、フォード・モーターを追い抜いて、ついに世界第2位の自動車メーカーとなった。2003年度末の純利益、および時価発行総額で見ると、同社はあらゆる競合他社を抑えてナンバーワンの座にある。

 このような偉業ゆえに、一つの疑問が浮かんでくる。トヨタがこれほどまでに研究され、模倣されているのに、同社の業績と肩を並べる企業がほとんどないのはなぜだろう。

 1999年、H. ケント・ボウエンと私が『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌に寄稿した論文[注1]のなかで、ほとんどの人々が、トヨタのツールや戦術、たとえば「カンバン」「後工程引き取り」「アンドン」「生産セル」などに気を取られ、その運営にまつわる基本原理をなおざりにしていることが問題の一端であると論じた。

 その論文で、我々は「4つの原理」(あるいはルール)を特定した。これらの原理が組み合わさり、通常の作業のみならず、より効率的な作業法を学習することが奨励され、そしてこれらは相互に結びついている。その結果、信頼性、柔軟性、安全性、効率性が継続的に改善され、ひいては市場シェアと収益性の持続的な成長がもたらされている。

 また、同じく先の論文で説明したように、トヨタの本当の素晴らしさとは、単にツールを生み出し、活用しているということではなく、あらゆる作業や業務が継続的な「実験」として組み込まれていることにある。たとえば、車体にシートを据えつけるといった単純作業でも、あるいは新車種を発売する、新しい工場を開設するといった複雑で、特殊かつ大規模な課題でもその点は変わらない。

 また、トヨタは標準化に大変熱心だが、これはベスト・プラクティスを管理することを目的としたものではなく、それどころか、把握するためでもないとも論じた。むしろ標準化、より正確に述べれば、実際の作業に取りかかる前に、作業方法について明確に規定することは、作業を進めながら作業を検証することと一体化しているのである。