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【HBR CASE STUDY】
[コメンテーター]
ケネス B.マクレーン(Kenneth B. McClain)弁護士
リチャード・バーマン(Richard Berman)センター・フォー・コンシューマー・フリーダム エグゼクティブ・ディレクター
パム・マートフ(Pam Murtaugh)パム・マートフ・アンド・カンパニー 社長
ローリアン J. アネバー(Laurian J. Unnevehr)イリノイ大学 教授
[ケース・ライター]
ベン・ガースン(Ben Gerson)ハーバード・ビジネス・レビュー 編集主任
*HBRケース・スタディは、マネジメントにおけるジレンマを提示し、専門家たちによる具体的な解決策を紹介します。ストーリーはフィクションであり、登場する人物や企業の名称は架空のものです。経営者になったつもりで、読み進んでみてください。
いまいましい大邸宅
メリーランド州ベセズダのベッドタウン。その小高い丘の上に、豪華なビクトリア朝様式のピーター・シュミット邸は建っていた。その屋根裏部屋の窓からは、高性能の双眼鏡を使えば議事堂のドームが見えるだろう。それは、この町のこの家に住むことで得られるささやかな楽しみの一つであった。
ただし、それも先月までの話だった。バージニア州ウィリアムズバーグの州知事邸を1回り大きくしたような大邸宅──歴史的には煙突2本が正しいが、その屋敷からは4本突き出ている──が隣に現れたからである。
この大邸宅の主は、原告側弁護士のアレックス・ケゼナス、64歳。1999年、彼はその弁護士人生において最高額の報酬を手に入れた。この時の依頼人は、ウエストバージニア高校に通う18歳の野球部員で、噛みタバコの常用から致命的な舌ガンとなった高校生である。
アレックスの手腕で、陪審員たちはオールド・チェロキー・タバコに対して、実質的、懲罰的両方の理由から1210万ドルの損害賠償金を科した。そのうちの6分の1が成功報酬としてアレックスの懐に転がり込み、いま彼が住む家──例のいまいましい障害物──の資金となったのである。
こうして日曜の朝、ベッドの端に腰掛けて、ぼんやりと窓の外に目をやりながら、ピーターは自分にこう言い聞かせた。「気に障るのは、アレックスの仕事ではなく、彼の家なのだ」と。たとえいま、自分が訴訟者たちのことを考える気分ではないにしても──。