ルーセントは間違った経営理論を採用してしまった

 具合が悪くなり、医者にかかった場面を想像してみよう。

 症状について説明することもなく、勝手に医者が処方箋を書き上げて、「これを2錠ずつ、一日に3回服用しなさい。そしてまた来週いらっしゃい」と言う。「どこが悪いのか、まだお話ししていないのに、これが私に効くとどうしてわかるのですか」とあなたは尋ねる。「効かないはずがありません。2人の患者には効いたのですから」と医者が答える。

 名医といわれる人ならば、こんな診察をすることはあるまい。良識ある患者はこのような診察に納得したりはしないだろう。

 しかし、研究者やコンサルタントはこのような一般的な助言を日々「処方」し、経営者たちもこのような「治療」を日々受けている。特定の行動計画が他企業の成功を促進したのなら、自分たちにも役に立つだろうという楽観的な考えからだ。

 ここで、ルーセント・テクノロジーズという通信ネットワーク装置のサプライヤーについて見てみたい。

 1990年代後半、同社はそれまであった3つの事業部門を、11の「時流に乗った事業」に再編した。この構想によれば、これら11事業は社内起業家による新規事業のごとくそれぞれが独立し、大きく展開していくはずだった。

 経営陣は、これによって経営判断が下位組織に浸透し、より市場に近づくことで次なる成長へ、そしてさらなる利益水準へと発展すると断言した。そうすれば、迅速にして目的のはっきりした改革が実現するというのである。

 自立と分権──。この考え方は当時の流行であり、実際、他所の大企業でも効果的と考えられていた。当時、きわめて好調に見えた新規事業群は、どれも小規模で、それゆえ自立性に富んでおり、市場に密接していた。これらの企業で成功しているのであれば、ルーセントにも必ずや有効であると考えたわけだ。