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死に体プロジェクトをなぜ中止できないのか
その商品は、イーベイのオークションには現在も出品されている──粋に輝くLPサイズのビデオディスク・プレーヤー、RCA製〈セレクタビジョン〉。しかし、この商品プロジェクトは、コンシューマー・エレクトロニクスの分野で稀に見るほどの汚点となっているのである。
〈セレクタビジョン〉の失敗は深く胸に刻んでおくべきだろう。というのも、単に売れ行きが振るわなかったからというのではない。あらゆる角度から見て、まず普及しそうにもないことがほぼ確実だったにもかかわらず、RCAは〈セレクタビジョン〉に長い間、執拗に資金投入を続けたのである。
試作品の第1号が完成したのは1970年だが、その時すでに一部の技術者は、蓄音機に毛が生えたような技術の商品では時代遅れではないかと懸念していた。その7年後、VCR(ビデオ・カセット・レコーダー)の品質が向上し、デジタル技術の実用化も遠くないと見られていたため、競合他社は一社残らず、ビデオディスクの研究開発から手を引いていた。
81年に〈セレクタビジョン〉を発売したところ、消費者の反応は冷ややかだったが、それでもRCAは新型モデルを開発し、増産に向けて投資を続けた。84年に入って、ようやくその生産を中止したが、それまでに14年の歳月と、実に5億8000万ドルの資金を投じていた。
これほど派手ではないにせよ、産業界ではこの種の失敗が後を絶たない。もとより後で振り返れば、物事はよく見通せるものだ。大胆な賭けに出て失敗した事例についても、後知恵で批判するのはたやすいが、それにしても、成功の見込みがきわめて薄いという証拠が積み重なっているにもかかわらず、猪突猛進してしまうケースがあまりにも多くないだろうか。
このような死に体プロジェクトを、なぜ中止できないのだろうか。単に経営者の力量不足なのか。あるいは組織が硬直し切っており、既定路線を変えられないのだろうか。私の研究によれば、原因はこれらとはまったく別のところにある。
経営者が無能だからでも、組織が硬直化しているからでもなく、皮肉にも、経営者やマネジャーが揃って「このプロジェクトが失敗するはずがない」とひたすら信じ続けたのがその理由だったのである。このような成功への思い込みは、プロジェクト・リーダーの胸にまず芽生え、やがて組織全体へと広がっていく。
徐々に勢いを増しながら、組織の頂点にまで伝わるという例も珍しくない。その結果、「集団信仰」とでも呼ぶべき精神状態が生まれ、本来ならば合理的に振る舞う組織が、不合理極まりない行動へと奔ってしまう。
言うまでもなく、プロジェクトを立ち上げて前に進めるには、強い信念、さらには障害があってもけっして屈しまいという意志が欠かせない。ただし、これにも副作用がある。成功を信じて疑わずにいると、プロジェクトが進展するにつれて、R&D部門、ベンダー、ビジネス・パートナー、顧客などの苦言に耳をふさぐ傾向が強まっていくのである。