高齢者介護を担う労働者が増えている

 数十年前から多くの女性が労働に参加するようになり、それに伴い、育児は、男女を問わず従業員にとって大きな課題となった。いまでは、従業員に育児支援を提供することは、先進的な組織の人材戦略において不可欠な要素である。一方で、家族の世話に関する新たな課題が多くの従業員の間で顕在化しており、企業がその解決を真剣に支援すべき時が来ている。その課題とは、高齢者介護である。

 驚くべき事実がある。米国史上初めて、就労者のうち、高齢者を介護している成人の数(2300万人近く)が未就学児の世話をしている成人の数(2100万人)を上回ったのだ。高齢者を介護している就労者は現在、労働力人口の14%を占めており、この割合は今後も増加し続ける見込みである。65歳以上の人口が米国で最も急速に増えているためで、2050年までにその数は6300万人から8200万人へと30%増加し、総人口のほぼ4分の1を占めると予測されている。より急速に増加しているのは、85歳以上の高齢者であり、その数は同期間中に700万人から1700万人へと、150%近く増加すると予測されている。こうした傾向は、世界中のほぼすべての先進国、および多くの途上国においても同様である。

「健康寿命」(障害を伴わずに生活できる期間)は、残念ながら平均寿命の延伸に追いついていないのが現状である。米国の平均寿命は78歳前後だが、高齢者は平均すると人生の最後の十数年間は健康状態が悪いまま過ごしており、その期間は近年さらに長くなっている。筆者らが最近の調査報告書"Meeting the Growing Demand for Age-Friendly Care: Health Care at the Crossroads[注1]"(高齢者に優しい介護に対する需要増大への対応:岐路に立つ医療制度)で述べた通り、今後数十年間にわたり、これまで以上に多くの高齢者が、長期にわたる複雑な介護と支援を必要とするようになる見通しである。

 高齢者介護の大部分を担っている家族介護者の数も、延び続ける寿命に追いついていない。家族の規模が縮小し、親や親族を介護できる子どもの数が減っている。また、地理的に分散しているため、日常的な介護が可能な距離に住む家族の数も少なくなっている。家族介護者の減少を示すおおまかな指標として、米国勢調査局が公表している「介護者支援比率」がある。これは、介護を担う可能性が高い45~64歳の人口と、介護を必要とする可能性が高い80歳以上の人口の比率を示すものである。この比率は、2010年には7対1であったが、2030年には4対1、2050年には3対1になると予測されている。この傾向は、世界中の先進国および途上国にも広がっている。

 有償の介護サービスでは、この介護者不足を補うことはできないとされている。その理由は2つある。第1に、米国の過半数の世帯にとって、費用の負担が大きすぎることである。年間の長期介護費用は通常、高齢者向け公的医療保険であるメディケアの適用外であり、施設での介護は年間平均10万4000ドル、在宅介護でも6万9000ドルに上る。第2に、需要に対応するには、今後10年間で長期介護に従事する労働者を100万人以上増やす必要があるが、それが実現する可能性は極めて低い。

 メディケアを拡充して長期介護を適用対象にすれば、高齢者介護の費用と労力を負担している人々にとって、大きな安心材料となるだろう。また、この考えには多くの支持が集まっている。エイジ・ウェーブとジョン A. ハートフォード財団が最近実施した調査によると、米国人の80%が、高齢者に優しい新たな医療制度に長期介護を組み込むことに賛成していることがわかった。

 米国の労働者のほとんどは、キャリアのいずれかの時点で高齢者介護に関わることになる。たとえメディケアの拡充が政治的・経済的に実現可能であったとしても、多くの従業員は依然として介護の調整などを担う必要がある。高齢者介護は、労働者の多くにとって、仕事と並行して果たさなければならない「もう一つの仕事」であり続ける。

 従業員がこうした課題に対応できるよう支援するには、大多数の雇用主が育児に対してそうしてきたように、本気で取り組み、制度やプログラム、福利厚生を新設・拡充する形での支援が求められる。その必要性は明白である。ケア・ドットコム[注2]によると、家族をケアする従業員への支援は、生産性、定着率、採用力、多様性の向上につながる。また、ラトガース大学のセンター・フォー・ウーマン・イン・ビジネスによれば、ケア労働そのものが成長を促す。ケアに従事した人々[注3]は、共感力、効率性、粘り強さといった介護で培った能力を、職場においても発揮することが確認されている。