これから15年後:2つのシナリオ

 これから15年後に、世界はどうなっているのだろうか。次のような惨憺たる状況を想像してみてほしい。

 世界経済は現在の不況を脱しているが、成長はいまだ鈍化したままである。デフレは相変わらずの不安要素であり、貧富の格差は拡大の一途をたどっている。混沌とした経済状況、政府崩壊、内戦といった問題が、次々と発展途上国を襲う。テロは依然として世界に脅威を与え続け、安全のために多額の公的資金、民間資金が投じられる。一方で、世界市場のシステムに対する抵抗が強まる。多国籍企業は事業拡大が困難になり、多くの企業がリスクを回避しようと投資を手控え、新興市場から資金を引き上げる。

 一方、こんな明るいシナリオはどうだろうか。途上国の経済が、民間投資と起業家たちの幅広い活動に後押しされて大躍進する。富と就業機会が増え、毎年数億人もの消費者が世界市場に送り込まれてくる。中国、インド、ブラジル、そして徐々に南アフリカも、新たに世界経済の成長を推進するエンジンとなり、世界じゅうに繁栄をもたらす。貧困が後退することで、社会的に得られるメリットは大きい。多くの途上国は次第に安定し、内戦や多国間紛争も減り、テロと戦争の脅威が去る。その結果、イノベーションと企業間競争が高まり、多国籍企業は急速に拡大していく。

 2つのシナリオとも、実際に起こりうるものである。そしてどちらが現実になるかはほぼ一つの要因によって決まるといってもよい。すなわち、大手の多国籍企業が世界の貧困層市場に参入し、投資するか否かである。

 というのも多国籍企業には、経済ピラミッドの底辺で暮らす数十億の人々の生活を根本から改善する力があるからだ。貧困層市場でビジネス取引と経済開発を刺激すれば、より安全な、より安定した世界を実現する一助になるのである。ただし多国籍企業は、この目標を達成するために、慈善事業家として世界の社会的発展のイニシアティブを取る必要はない。ただ企業として、自己の利益を追求すればよい。あまり知られていないが、途上国市場に参入すれば、途方もなく大きな果実を手に入れることができるのである。

 実際、先進的な企業のなかには、スタートアップ企業にしろ、大手の老舗企業にしろ、世界の底辺市場に参入している企業が多くある。そして、高い収益とオペレーション効率を実現し、イノベーションの新たな源泉を発見することを戦略としている。これらの企業にしろ、それに続く企業にしろ、ピラミッドの底辺を対象にすれば、21世紀における強力な競争優位を獲得するであろう。

 とはいえ、途上国の経済的困窮は、大企業が単独で解決できる問題ではない。先進諸国が財政援助を向けたり、途上国自身が行政改革を実行したりすることも必要である。しかし筆者らが見る限り、最貧困地域を発展させるには、多国籍企業が継続して直接関わること以外他に道がない。しかも、このような関わりによって最貧困地域だけでなく多国籍企業もいっそうの発展を遂げることができるのである。