ロイヤルティ信仰の虚々実々

「最優良顧客とはロイヤル・カスタマーである」と我々は教わる。ロイヤル・カスタマーは他の顧客ほど対応コストがかからず、しかも金払いもよい。そのうえクチコミまでやってくれることもある。したがって、とにかく顧客ロイヤルティを勝ち取ることだ。そうすれば、昼の後には夜が訪れるように、自ずと利益はついてくる──。

 これが、CRMのソフトウエア・メーカー、そのシステムの普及を支えるコンサルタントたちが主張するところである。また、経営者の大半もうなずいている。

 ロイヤルティ・マーケティングへの支出は急速に伸びている。たとえばヨーロッパでは、小売企業の上位16社を合わせると、2000年のそれは10億ドルを上回った。この10年間ほど、カスタマー・ロイヤルティの重要性はあまりにも声高に説かれてきた。「そこに疑問を投げかけるなど、ちょっとおかしいのではないか」と思われる向きもあろう。

 ところが実際は、ロイヤルティに早くから注目してきた企業こそ、疑問を抱き始めている。そこで、我々が研究したアメリカの某B2Bハイテク・サービス企業を例に挙げてみよう。

 1997年、同社は手の込んだコスト評価法を導入し、スタートさせたばかりのロイヤルティ・マーケティングの効果を追跡した。このコスト評価法は顧客別に直接原価をはじき出すだけではなく、関連する広告宣伝、サービス、営業、および一般管理費のすべてを測定するものだった。これを5年間続けてみたところ、長期的に見た各アカウント(顧客)の採算を把握できるようになった。ロイヤルティ・マーケティングに年間200万ドルを投資した見返りとして、はたして何が得られたのだろうかと、経営陣は興味しんしんであった。

 結果は予想外のものであった。少なくとも2年間定期的に購入した顧客、すなわち「ロイヤル・カスタマー」と分類される顧客の半分が、ぎりぎり黒字、あるいは収支とんとんという程度であった。また、最も利益性の高い顧客の半分はいわゆる「一見さん」で、短期間のうちに利益率が高い商品を多量購入しているが、その後取引が途絶えてしまう類であった。

 我々の研究結果もこの企業の経験を裏づけるものだった。我々はある4社の顧客データを使って、カスタマー・ロイヤルティの力学について研究していた。その4社とは、前述のB2Bハイテク・サービス企業に加えて、アメリカの大手通販会社、フランスの食品雑貨チェーン、ドイツのオンライン証券会社である。収集したデータに基づいて、個人と法人を合わせて1万6000の顧客の4年間にわたる購買行動、売上げと利益率を比較した。

 この研究から判明したことは、カスタマー・ロイヤルティと利益性との関連は、ロイヤルティ・マーケティングの支持者が言うよりもはるかに低く、何とも把握し難いということだった。特に、長期的かつ確実に購入する顧客は対応コストが低く、また価格感度も低く、クチコミなどで新規顧客の獲得にもことのほか有効であるということを示す証拠はほとんど、いやまったく見当たらなかった。