再起力──人間に潜む不思議な力

 私はある全国紙の記者として、ジャーナリストのキャリアを歩み出した。私の職場には、クラウス・シュミット(仮名)という名前の男性がいた。年の頃は50代半ばで、私の目に「これこそ新聞記者」と映る人物だった。

 時たま皮肉っぽいが、飽くなき好奇心と才気にあふれ、ちょっとしたユーモアも持ち合わせていた。彼は、一味違う巻頭記事や特集記事を何度も書いており、しかも、そのスピードと文章力たるや、私には夢のようなレベルであった。にもかかわらず、彼がいっこうに編集長に昇格しないことがいつも不思議だった。

 クラウスをよく知る人は、彼が新聞記者として頭抜けているだけでなく、才能ある者をやっかみがちな職場でも生き残れる典型的なタイプと見なしていた。

 編集部の幹部は3回にわたって大幅に入れ替わったが、クラウスだけは生き延びてきた。ただしその間、親友や同僚のほとんどを失うこととなった。一方家庭はというと、2人の子供が不治の病に冒されており、また交通事故で1人を亡くしていた。

 こんな状況にもかかわらず、あるいはだからこそか、彼は来る日も来る日も編集部内を歩き回っては、若い記者たちを指導したり、自分の書いている小説について語ったりと、これから起こることを心配するどころか、むしろ楽しみにしているかのようだった。

 なぜ、だれもが臆するような困難に直面してもくじけない人がいるのだろうか。まったく様子の異なるクラウスというものも想像できなくはない。実際我々はそのような人を絶えず見てきている。解雇された後、自信を取り戻せない人、離婚後うつ状態が続き、普通の生活から数年間離れなければならなかった人等々──。

 それなのに、人生を切り抜けていく「再起力」(resilience)を備えた人たちがいる。なぜか。