ジョン・リードがこだわったこと

 シティコープの元会長兼CEO(最高経営責任者)ジョン・リードは、折に触れては役員たちに「全体像をつかむように」と諭していたという。

 事業部門のトップは戦略をプレゼンテーションする際、数枚のスライドにまとめるように求められ、この厳しい要求に応えない役員がいると、リードはあからさまに不快感を示した。この指示を何度も破ると、戦略セッションへの出席を認められなくなるおそれすらあった。

 リード以外にも、多くの企業リーダーが全体像に強いこだわりを抱いている。ところが我々が調査を実施したところ、明確な戦略ビジョンを持っている企業はごく一握りにすぎなかった。

 その原因は、戦略プランニングのプロセスそのものにあると思われる。通常、このプロセスでは膨大な資料が作成される。

 そこにはさまざまな部門からのデータが詰め込まれるが、各部門は互いに相容れない課題を抱えており、コミュニケーションも十分ではない。

 リポートの冒頭では、たいてい業界の現状や競争環境の説明に多くのページが割かれる。続いて、各地域、各分野で市場シェアを伸ばす方法、新しいセグメントを獲得する方法、コストの削減方法などが述べられ、さらには目標や施策といった多数のテーマについて概説される。予算の詳細も必ず載っている。そのうえ多数のグラフ、うんざりするほどのチャートが並ぶ。

 これでは、戦略がほとんど実行されないのもうなずける。経営陣は混乱してなす術を失っているのだ。しかし、このままでよいはずがない。