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コーチングもコーチ次第で毒となる
ここ15年ほどの間、将来を嘱望されている企業幹部のためにエグゼクティブ・コーチを雇う企業が増えてきた。このようなエグゼクティブ・コーチのなかには心理学の専門家もいるが、もっぱら元スポーツ選手、弁護士、ビジネス関係の研究者、コンサルタントたちが多い(囲み「コーチング業界の今後」を参照)。
彼らが、多くの企業幹部のパフォーマンスを高める一助となってきたことは紛れもない事実だが、ここで紹介したいのは、それとは別の結果に終わってしまったケースである。
実のところ、コーチがしかるべき心理学の教育を受けていないため、かえって現状を悪化させてしまうケースが驚くほど多い。彼らは対象者の心の奥底に潜む問題を軽視し、時にはまったく無視してしまう。このような事態は、コーチ自身の経歴や思い込みが障害となり、そのような問題を理解しないのが原因である。
とりわけ憂慮されるのは、問題の原因が心的障害にあり、かつそれが看過され、または気づかれても手当てされないままでコーチングが行われているケースである。こうなると現状は悪化する方向へと向かう。私の経験では、症状が重かったり、なかなか回復が見られなかったりする場合、無意識の葛藤に原因があることが多い。問題を解決するには、心の問題に取り組む必要がある。
悪いコーチングは深刻な問題を誘発する
まず、ロブ・バーンスタイン(プライバシー保護のため、登場する人物の名前はすべて仮名を使用する)の例を挙げたい。彼は自動車部品卸会社に勤める営業担当専務で、同社のCEO(最高経営責任者)によると、営業にかけては大変有能だが、社内では「問題児」だという。
ある日、会議中にもかかわらず、小包の受け取りサインをもらおうと入室した郵便担当者を、彼はみんなの面前でなじってしまった。結局これが引き金となって、CEOは彼のためにエグゼクティブ・コーチを雇った。コーチのトム・デイビスはかつて企業の顧問弁護士を務めていたこともある、きびきびした感じの男で、バーンスタインを4年ほど担当した。
この間における彼のコーチングはというと、バーンスタインのサポート・スタッフへの悪態を指摘し、問題の根源を探るのではなく、「大衆を操縦する技術」という、まるでマキャベリのような教えを施したことだった。
デイビスの指導は成功したかに見えた。しかし困ったことに、バーンスタインは問題が解決したかと思うと、すぐさま次の問題を起こした。