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破壊的技術をコダックは「脅威」とドネリーは「商機」と見た
人生、だれしも思いがけない変化に直面するものだ。その変化をどのように受け止めるか、これによって反応は異なる。
変化を脅威と見た場合、自らを守ろうと好戦的な行動に訴えるなど、防御的な態度を示す傾向がある。逆に、チャンスと見るならば、より慎重に、じっくり考える傾向がある。このような場合、けっして急いだりはしない。また、どのように状況が展開していくのか──これまでの習慣を変えないままで──静観することもある。
企業組織にもまったく同じことがいえよう。事業をその基本から変更させかねない破壊的な市場変化に直面した時、どのように経営者がこの事態をとらえるか次第で、社内への説明、変化への対応、そして経営資源の配分方法が決まる。
破壊的変化を脅威と見れば、異常に素早く、経営資源を過剰投入するといった反応を示しがちである。反対に、これをチャンスと見た場合、必要な経営資源が十分に投入されないことが多い。要するに、経営者がどのように破壊的な市場変化をとらえるかによって、採用する戦略が決まってしまうのだ。
1996年のコダックの例を考えてみよう。当時のCEO(最高経営責任者)、ジョージ・フィッシャーは、デジタル写真技術がやがて同社のコア事業を侵食し、場合によっては取って代わってしまう可能性があることに気づいた。
しかし昔からの顧客がこの新技術にすぐさま飛びつく可能性は低く、さらに利益率はコア事業よりも低かったことから、フィッシャーやその他のシニア・マネジャーがこれを見送ったとしても無理はなかった。ところが、何と彼らはこの誘惑に抗った。フィッシャーは全社員を鼓舞し、デジタル画像技術の研究開発に20億ドル以上を投入したのだ。
ここで、フィッシャーをはじめとする経営陣は、この新技術がもたらす脅威を懸念するがあまり、その市場動向を見極める前にこの巨額な研究開発費のほとんどを使い切ってしまった。コダックは、価格体系と製品仕様──後で変更に苦しむことになる──を早々と決定してしまい、1万店にも上るコダック系列店に〈デジタル・キオスク〉を急遽開設した。
この結果、コダックのデジタル写真事業は、短期的には既存の写真市場で失敗し、しかも新市場すら開拓できなかった。ヒューレット・パッカード、キヤノン、ソニーといった異業種から参入した企業のほうがむしろ成功を収めていた。これらの企業は、家庭内のデータ容量と印刷能力を考慮した製品を投入し、その過程において、利便性をはじめ、データの保存性や検索性に関わる新規需要を掘り起こしたのである。これらのアプリケーションのおかげで、デジタル写真市場の成長は促された。