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新人マネジャーは自然に成長したりしない
トム・エデルマン(仮名)は、管理職に登用される他の人たち同様、一社員として素晴らしい仕事を重ねてきた。頭がよく、自信に満ち、何事にも前向きで、しかも戦略思考を備えていた。クライアントからも上司や同僚からも好かれていた。
それゆえ「彼を管理職に」という話が持ち上がった時、周囲のメンバーはだれしも順当なことと受け止めた。多少ためらうところはあったが、トムはその職を引き受けた。クライアントと一緒に働くのが大好きで、現場から離れるのは残念だったが、彼は新しい任務に心躍らせていた。
その6カ月後、トムのコーチ役として私が雇われた。初めてトムに会った時、自信にみなぎっていた頃の彼を想像することは難しかった。まるで路上で急にヘッドライトを当てられたシカのようだったのだ。いまにも重圧に押しつぶされそうで──事実彼も自らの感情を表現する時、その言葉を用いていた──自分の能力に疑問を抱き始めていた。
かつて親しかった直属の部下たちは、トムへの尊敬の念を失い、敬遠していた。しかも、彼が担当する課では些細な災難が続いており、トムはその対応に追われていた。それがあまり効率的ではないことをトム自身もわかっていた。しかし、うまい収め方を知らなかった。ただし、まだ課の業績へ飛び火するには至っていなかった。とにかく、彼が問題を抱えていたことだけは明らかだった。
トムの上司は彼の状況がのっぴきならないことを察知し、それで私がお手伝いすることになった。さまざまな支援とコーチングの結果、トムは必要な助けを得、優秀なマネジャーへと変身した。実際、私と一緒に仕事をした後、2度昇進しており、現在小さな部門の長を務めている。
彼のような失墜寸前のケースはもちろん、そこに至るプロセスは各所で見られる。ほとんどの組織が実務能力に基づいて昇進を決めているが、選ばれた人たちは自分の役割が変わったことを理解できない。そう、自分の業績ではなく、他人のそれを引き上げるということをわかっていないのだ。バスの運転には後部座席に控えている人も必要であり、すなわち、交渉をまとめるよりも、チームを育成することが重要となる。
Aクラスの社員ですら、この新しい現実に対処できないことがある。このように不安に見舞われた新人マネジャーが助けを求められないことで、状況はいっそう悪化する。まったくの未知の領域に踏み入ったのだから、そもそも救いを請うべきなのだ。