顧客は製品ソリューションを持ち合わせていない

 どのような企業も「当社は顧客の望むものを提供しております」と自慢する。健康によいファストフード、ニコチンの入っていないタバコ、大型エンジン搭載の自動車……。何はともあれ、顧客が望むものを提供しておけば、成功は間違いない。いや、間違いないと考えられている。

 しばしば顧客は、頻繁に実施されるフォーカス・グループに参加したり、リサーチに協力したりして、自分たちがどのようなソリューションを望んでいるかをアピールする。R&D(研究開発)のスタッフは、ひたすらそのアイデアの実現にはげむ。顧客は、期待して待つ。

 ところが、いざその製品・サービスが市場に導入されると、大失敗以外の何ものでもなかった……。これでは、何とも悲しいではないか。

 なぜこのようなことが起きるのだろうか。「顧客の声を聞く」というプロセスが間違っているからである。その方法があまりにもまずすぎるので、イノベーションの機会を失うばかりか、製品づくりの足すら引っ張っているのが現実である。

 当社は過去12年間にわたり、さまざまな企業の市場調査とR&Dを観察してきた。なかには大成功したものもあるし、誤ったものもあった。

 問題があるとすれば、それは単純なことだ。企業は、顧客に「何がほしいのか」と尋ねる。顧客は「こんな商品がよい」「あんなサービスがいい」というかたちでソリューションを提案する。「映像が映る電話やテレビ電話があると便利だね」とある顧客は言い、また別の顧客は「オンラインで食品雑貨を買いたいわ」と言うかもしれない。

 そこで企業はこのような無形のソリューションを、「有形なもの」として実現させる。しかし残念ながら、ほとんどの場合、顧客はそれを買わないのである。

 理由も単純である。顧客がソリューションを考え出してくれるなどと、当てにしすぎているのだ。たしかにソリューションを出すことは、イノベーションのプロセスにおいて重要な部分だ。だが、顧客はそのエキスパートでもなければ、情報通でもない。

 R&Dは、このために存在するのである。むしろ顧客には、アウトカム(結果)だけを尋ねるべきなのだ。すなわち、「新しい製品・サービスに何を求めているのか」である。