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ブランドの魅力が存分に発揮される時
クエーカー・オーツ(以下クエーカー)のスナップル買収劇──その名前を聞いただけで、M&A(企業の合併・買収)のベテランを震え上がらせる案件である。というのも、それなりの理由がある。
1993年、クエーカーはコカ・コーラなどの競合に競り勝って、スナップル・ブランドを17億ドルで買収したものの、4年後の97年には、それをわずか3億ドルでトライアーク・ビバレッジ(以下トライアーク)に売却せざるをえなくなっている。この価格でさえも、関係者の間では上出来との評価であった。
このスナップル事業の失敗により、クエーカーの会長および社長が引責辞任に追い込まれたうえに、クエーカーそのものが他社の傘下に入る時期も早まってしまった(現在、クエーカーはペプシコの傘下にある)。
話はこれだけに止まらない。2000年10月、非上場企業のトライアークは、クエーカーから買い取ったスナップルを、キャドベリー・シュウェップスに、約10億ドルで売却することに成功した[注]。
いったん価値を喪失したブランドの復活は、どんな業界においても驚異的なことだが、ブランドのライフサイクルがきわめて短い飲料水業界では、奇跡に等しい。
スナップルの奇跡的復活に関して、さまざまな疑問が持ち上がった。スナップル・ブランドがクエーカーのマネジメントの下、4年間に14億ドルも価値を下げてしまったのはなぜか。その後トライアークは、いかにして3年に満たない短期間で、その価値を復元させたのか。クエーカーが全力を尽くしても不可能であったことを、トライアークが、いとも簡単にやってのけたのは、なぜか。
2000年11月、トライアークがスナップルをキャドベリー・シュウェップスに売却した直後、筆者はトライアークの経営陣に、これらのことを質問する機会を得た。応じてくれたのは、発行株式の過半数を握る会長のネルソン・ペルツ、CEO(最高経営責任者)のマイク・ワインスタイン、マーケティング担当取締役のケン・ギルバートであった。
彼らの話を聞いているうち、筆者は、あることを確信するようになった。それは、マーケティング専門家からは反論を受けるだろうが、ブランドの目指すところと、ブランドの持ち主である企業の文化が、きわめて重要な関わり合いを持つということだ。両者が、互いに相容れないものであると、ブランドも、これを所有する企業も、被害を被る点では運命を共にする。