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歪む予算編成
企業の予算編成がいかにばかげているかは、だれもが知っているだろう。役員たちはそのために莫大な時間を費やし、くだらない会議と緊張した交渉を果てしなく繰り返さなければならない。マネジャーは嘘やだまし合いを重ねたり、目標を低く設定したり、業績を水増ししたりする衝動に駆られる。結果、真実を告げたら罰を受けることになる。
つまり、企業の意思決定プロセスは、複雑なゲームをしているにすぎない。仲間同士を対抗させ、不信の念と悪意を生んでいる。インセンティブは歪められ、本来とは逆の方向に動機づけてしまう。
2つの例を挙げてみよう。ある国際的重機メーカーでは、マネジャーに四半期ごとの売上目標を達成するよう求めたために、未完成品をイギリスの工場から納品先に近いオランダの倉庫に送り、そこで最終的に組み立てるようになった。未完成でも出荷すれば期末前に売上げが計上でき、目標を達成し、めでたくボーナスを手にできるからである。
しかし、倉庫代はもちろん、余分にかかった人件費など、遠く離れた場所で組み立てることによって生じるコストは、結果的に会社の総利益を圧縮してしまった。
もう一つは、最近ある大手飲料企業が招いた大失敗の事例である。最大規模の営業地域の担当副社長が、間近に控えた重要な祝日の需要を、控えめに予想した。実際の売上げが必ず予測を上回るようにという、いたって単純な動機からだった。しかし、この他愛のないちょっとした嘘のせいで、会社にはとてつもない「つけ」が回ってきた。彼の予測に基づいて会社は製造計画を立てたために、祝日のピーク時に主力製品が品切れになるという事態を招いたのである。
こうした歪んだ意思決定は、ビジネスでは珍しくない。似たようなケースが数多く、頭に浮かぶことだろう。ひょっとするとあなた自身もその衝動に駆られているかもしれない。ごまかしが日常茶飯事となり、目につかなくなってしまっていたら、実に嘆かわしいことだ。
こういった予算編成プロセスが企業に過剰に深く組み込まれてしまうと、担当者は平気で嘘をつくようになり、いかに破壊的な策略だろうとごく当たり前のビジネスとして受け入れてしまうようになる。
しかし、そうならざるをえないわけではない。死や税金から逃れられないのと同様に、予算作成は必然だとしても、詐欺的な行為は必然ではない。なぜなら、逆効果となってしまった先のような行動の真の原因は、予算目標を報酬の基準にすることにあるので、予算編成プロセスそのものではないからである。