新しいルーティンへの挑戦

 心臓外科手術は、現代医学の奇跡である。一般家庭の台所とさして変わらない広さの手術室で、心臓や肺が停止した患者が機能的な死亡状態に陥っている間に、外科チームは動脈や弁を修復・形成したり置換したりする。そして1週間後、この患者は歩いて退院するのである。

 この奇跡は医療技術の証であると共に、高度に磨かれたチームワークの証でもある。心臓外科チームはさまざまな専門家が集まっており、彼らは、手術を成功させるために緊密に協力して作業しなければならない。たった一つのミスや誤解、対応の遅れが重大な結果を招いてしまうことがある。

 言い換えれば、外科チームは、近年ビジネスの成功において重要視されるようになったクロス・ファンクショナル・チームのようなものととらえることができる。

 我々は、16の主要医療センターの心臓外科チームが困難な新しい手術法を採用する過程を調査した。この調査から、成果を決定づける一つの重要な要因が浮かび上がった。それは、新しい作業方法に対するチームの適応能力である。

 企業においてチームは、しばしば業務効率化のために開発された新しい技術やプロセスを習得しなければならない。しかし、その効果が表れず、効率が前よりも落ちるケースがよくあり、時にそれが長期にわたることもある。チーム・メンバーにとって、深く身についたルーティン作業の手順を変えるのは難しい。また、新しい役割やコミュニケーションになかなか適応できない場合もある。

 たとえば、製品開発チームがコンピュータ支援設計(CAD)ツールを新たに採用する場合、設計者や試験技師、工程技師だけでなく、営業担当者までもが、この技術を習得しなければならない。

 そのうえ、このツールに合った、まったく新しい作業方法に慣れなければならない。それは、それぞれが自分の担当する仕事をこなし、次の人にバトンタッチするというやり方ではなく、全員が協力して作業するという、まったく新しい作業方法である。

 ほとんどのチームは、時間が経つにつれ、新しい業務内容や作業プロセスに熟練していく。しかし、新しい手法の習熟に好きなだけ時間をかけられるわけではない。新しい取り組みに時間がかかり、もたついている間に、競争相手はその技術により大きな成果を上げているかもしれない。さらに新しい技術が出現して、自分たちが格闘していた技術さえ、実際に機能する前に時代遅れになってしまうこともある。