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門外漢による変革が成功した
2000年の5月のことである。アメリカ西海岸に向かう航空機に乗っていた私は、「なんてことをしてしまったのだ」と途方にくれていた。
ビジネスマンとしても成功し、生涯にわたる多くの友人たちにも恵まれたクラフト・フーズを退社した直後のことだった。
クラフト・フーズ以外の会社に勤めたことのない私が、住み慣れたシカゴを離れ、家族と共にロサンゼルスへ移り住もうとしているのだ。かの地で私は、問題に直面している企業のCEO(最高経営責任者)に就任する予定だった。しかも、そこは私にとってまったく未知の世界だった。
私が就職する企業は世界最大の玩具メーカーのマテルである。バービー(人形のブランド)、ホット・ウィール、アメリカン・ガール、フィッシャー・プライスなどの有名ブランドを有している。
強力なブランドを擁してはいたが、マテルの戦略はうまく機能していなかった。
私の前任者が買収したソフトウエア会社のラーニング・カンパニーは、多額の赤字を垂れ流し続けていた。運転資金は借り入れでまかなう有り様で、CIO(最高IT責任者)、業務責任者、流通担当責任者などをはじめとする上級管理職が次々と会社を去っていった。CEO不在の期間が、5カ月もあったほどだった。
社員のやる気も会社の株価も、落ちるところまで落ちた感があった。企業の理念は忘れ去られていたし、目標も見失っていた。まさに会社を立て直す時期だったのだ。
マテルの変革は順調な滑り出しで、当面満足する成果を上げているが、今後はいろいろな困難に直面することだろう。
ラーニング・カンパニーは売却した。コストの削減を断行したため、収益は改善した。また市場シェアも、アメリカだけでなく世界中で3年ぶりに上昇した。
そのおかげで、いまやマテルは投資家からも高く評価されている。世間の反応を総合すると、株主、投資家、取締役会、顧客のいずれもおおむねマテルの変革に満足しているようだ。投資家筋も、マテルが生み出した現金の使い道に興味を示しており、もはやマテルがいつまで存続できるかという話題は時代遅れになった。
何よりも嬉しいのは、会社の最も重要な資産である3万人の社員が、マテルのミッションの遂行に再び真剣に取り組んでくれたことだ。世界をリードするトイ(玩具)・ブランドを、現在だけでなく将来を見据えて創造し、販売していくというのがマテルのミッションである。
問題を抱える企業に新しく就任したCEOのご多分にもれず、私も、一面識もないウォールストリートのアナリストや顧客だけでなく、世界中のマテルの社員が新参のCEOに寄せる途方もない期待に直面した。
ある面で社員は独力で会社を変革する人物の登場を待ち望んでいたが、その半面、独断で徹底的な変革が断行されることを恐れていた。