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称賛されながら失敗に終わったアウトソース戦略
1980年代に、IBMはOS(オペレーティング・システム)の生産とプロセッサ・チップの製造をアウトソースすることを決定した。当時、同社は向かうところ敵なしであった。いや、そのように見えた。メインフレーム市場で70%のシェアを握り、同市場で生まれる利益の95%を占有し、業界に君臨して久しかった。
ところが、この動きが惨憺たる結果を招いたのは周知のところだ。その後10年余りにおよんだビッグブルー(IBMのニックネーム。ロゴなどに青を基調としたデザインを使っていることから)の低迷が始まり、コンピュータ業界の稼ぎ頭はマイクロソフトとインテルへと代替わりした。
過去を振り返って「一体全体、IBMは何を考えていたんだろうか」と言うのはたやすい。だが、現実には、その決定は当時の主流だった経営論に適ったものだった。
特に、コア・コンピタンス(企業の中核能力)以外のものはすべてアウトソースすべきだという考え方、すなわち、他社のほうが自分たちよりよく、あるいは安くできる事業は、どれも売却するかアウトソースする、という考え方にのっとっていた。
事実、当時の市場観測筋の多くは、IBMの動きを「見事な戦略」「先見の明がある」「目先が利く」と、持てはやしたものだった。
実際にはそうではなかったことが判明したのだが、IBMの壮大な失敗から、我々は何を学べるか。その答えがはっきりしているとは言い難い。
「次に大きく儲かりそうなものは、アウトソーシングするべからず」と言うのは簡単だ。だが、業界のバリューチェーンのなかで、将来どの部分の収益性が最も魅力的になるかを見通そうとしても、市場競争力を説明する既存のモデルはほとんど役に立たない。
経営者も投資家も、こぞってウェイン・グレツキー(アイスホッケーの名選手。「試合に勝つカギは、次にパックが来るところに敵より先に回り込むことである」というコメントを残した)のようになれたら、と願う。パックがどこに向かうかを嗅ぎ分ける人並み外れた能力があったら、と。
現在儲かっているところに進出しても、そこには分け前はほとんど残っていないことに気がつくだけであるのが、企業にとっての現実だ。
多くの大企業が犯す誤りの共通パターン
この6年間にわたって、我々は産業のバリューチェーンの進化を研究してきた。そして、あるパターンが繰り返されていることに気づいた。
そのパターンをたどると、どこに重点を置き、経営資源を集中すべきかという戦略を立てる場面で、なぜ企業が選択をたびたび誤ってしまうかがわかる。そのパターンを理解すれば、過去将来にわたり、IBMのみならず数多の経営者を悩ませてきた永遠の課題のいくつかに対して、答えを出す助けとなる。その課題とは以下のようなものである。