(左から)電通コンサルティングの田中 寛氏、電通総研の高橋 舞氏(電通より出向中)、帝人の垣立 浩氏と峠 真一氏
サマリー:帝人は全社レベルの変革の伴走者に電通グループを選んだ。新たに策定したパーパスの浸透による一人ひとりの行動変容、および事業を通じたパーパスの体現という両輪で推進されるこの変革の軌跡を描く。

100年以上の歴史を持ち、高機能素材とヘルスケアを両輪に事業展開する帝人。M&A(合併・買収)による事業の多角化とグローバル化は、成長の原動力となる一方で、グループ全体の連携の弱まりという課題も生み出していた。この状況を打破し、グループ2万人の求心力を高めるべく、同社は「Journey to One Teijin」プロジェクトを始動させ、新たなパーパス「Pioneering solutions together for a healthy planet」を策定した。

崇高なパーパスも、日々の事業活動に結びつかなければ「絵に描いた餅」に終わる。パーパスをいかにして従業員一人ひとりの行動変容につなげ、次世代の事業の柱を創出していくか。この壮大なテーマに対し、帝人はdentsu Japan(国内電通グループ)をパートナーに選んだ。電通と電通総研が支援する全社的なパーパス浸透活動と、電通コンサルティングが伴走する新規事業・組織開発。これら二つの取り組みは、それぞれ独立していながらも密接に連携し、相乗効果を生み出している。

パーパスを「絵に描いた餅」で終わらせない。行動変容を促す浸透策

 高機能素材とヘルスケアという二つの領域でグローバルに事業を展開する帝人。M&Aを重ね、事業の多角化を進めてきた結果、「従業員にとっても帝人の全体像が見えにくくなり、事業間・地域間の連携が薄れたという課題がありました」と、同社コーポレートコミュニケーション部部長の峠真一氏は振り返る。個々の事業は強くとも、シナジーを創出しきれない。この課題意識から、内川哲茂社長の主導で「Journey to One Teijin」プロジェクトが立ち上がり、2024年4月、新たなパーパス「Pioneering solutions together for a healthy planet」が策定された。

 パーパスは、言わば企業の存在意義を示す北極星だ。しかし、その光を全従業員が共有し、日々の業務の羅針盤としなければ、組織は動かない。帝人は、このパーパス浸透という重要な航海のパートナーとして、電通を選んだ。その取り組みは、単なる周知活動に留まらず、帝人の次代を担う新規事業創出と組織開発へと深く連携していくことになる。

帝人
コーポレートコミュニケーション部 部長
峠 真一

 パーパス浸透活動を開始するに当たり、帝人と電通は「共感を促し、行動へとつなげる」ための設計を重視した。電通総研コンサルティング本部シニアエキスパートの高橋舞氏は、そのポイントを3つ挙げる。

 第1に「行動への落とし込み」である。「マイアクションワークショップ」と名づけられたセッションでは、パーパスを理解したうえで、自分に何ができるかという具体的な「マイアクション」を設定することに重きを置いた。

 第2に「自分事化の促進」だ。世界に2万人の従業員を抱える帝人グループ全体にパーパスを浸透させるため、本部長クラスが参加するワークショップのファシリテーションを電通が担当し、その参加者が今度は部長クラスのワークショップでファシリテーターを務める、というカスケードダウン形式を採用した。「自身が次のファシリテーターとなる責任感から、パーパスを自分事として捉え、自身の言葉で伝えることで、浸透活動を促進しました」と高橋氏は語る。

 そして第3のカギが「フィードバックの仕組み」、すなわち双方向性の確保である。ワークショップで設定したマイアクションの実現に向け、上司や同僚など最大3人へ「こうしてほしい」というリクエストを送れる仕組みを構築。これは経営層内も例外ではなく、内川社長は受け取ったフィードバックをもとにみずからのマイアクションを、「誰も取り残さないOne Teijinを創ります。それを支えてくれる皆さんのチャレンジを応援します」に更新した。カスケードダウンによる現場への浸透だけでなく、現場からの声がトップに届き、変革を促す。帝人が重視する「対話型のアプローチ」が、ここにも貫かれている。

 こうした緻密な設計に加え、峠氏は電通のクリエイティブ力にも感銘を受けたと語る。「パーパスのステートメントをどう見せるかということが課題の一つでしたが、たとえば動画制作一つを取っても、感情に訴えかけるような素晴らしいものをつくり上げていただきました。また、ワークショップのファシリテーションにおける言葉使いも非常にシンプルかつ洗練されており、参加者の心に響いたと感じています。これらは、私たちだけでは成しえなかったことです」

 事実、全従業員を対象とした初の試みにもかかわらず、ワークショップ参加者の満足度は非常に高く、「日常業務を離れ、パーパスや自身の価値観について上司や同僚と語り合う機会を持てたことが、とてもいい経験になった」との声が多数寄せられた。エンゲージメントサーベイの結果も改善しており、確かな手応えを感じているという。