行動科学がサービスの盲点を補う

 よりよいサービス・マネジメントを実現するといっても、これ以上いったい何ができるのだろうか。この15年というもの、非常に多くの学者や実務家がこのテーマを研究し、そしてさまざまな成果を上げてきた。

 銀行の窓口サービスには行列理論を適用するようになった。効率のよいコール・センターを設けると成果が上がることを示した。レスポンス時間の厳密な測定も可能となった。そして、「真実の瞬間」「サービスのリカバリー」「お客さまに喜びを」といったテーマに人々の注意を引きつけてきた。

 このようにサービス・マネジメントの世界では、ありとあらゆる施策が試みられ、分析され、改善され、場合によってはさらに新しい施策が考え出され、取り入れられてきた。

 ところが驚いたことに、顧客の目にサービスがどう映っているか、といった切り口からの分析はほとんどなされていない。

 とりわけ、サービスを演出することを生業とする人々が、顧客の心の動き──言葉に出ることのない微妙なフィーリング──に十分な注意を払ってこなかった。

 しかし、行動科学がこのような盲点を補い、サービス・マネジメントに新風を吹き込んでくれる。行動科学、そして認知科学の分野では、何十年もの間、さまざまな研究が積み重ねられてきた。人が他者とどのように関わっているのか、そのなかで何を感じ、何を記憶しているのか、それが日々の生活のなかでどのようなバイアスとなっているのか──。

 その成果は、サービス・マネジメントに関わる人々にとって大きなヒントとなる。

 第1に、顧客が時間の長さをどのようにとらえるのか──時間の流れが緩やかに、あるいは速く感じられるのはどういった場合か、どういう順序で物事が進むと嫌な経験が最も印象に残りにくいのか、というようなことを知ることができる。

 第2に、顧客がサービスをどのように解釈しているかを知ることができる。たとえば、何かが思いどおりにならないような時、システムや仕組みではなく担当者を責めてしまう──といったことなどだ。

 本稿では、サービス・マネジメントの最前線で生かすことを目的に、行動科学の成果を紹介していく。さらに、顧客と接するというこの上なく大切な時間をよりよいものにするための方法を、トラブルの挽回方法も含めて提案していきたい。