交渉を決裂させるか採算は二の次とするか

「御社の製品は気に入っていますよ。でも値段がこれではね。うちはだいたいこの半値ぐらいで買っているんですから」

「アクメ社なんか、ただでもいいからサービス契約を結びたがってるんですよ。御社もそれくらいの覚悟がないと話になりませんね」

「率直に申し上げて、かなりいい線まで来たと思います。どうでしょう、このあたりで私の上司に会っていただきたいのですが。まさか私のことをタフ・ネゴシエーターだなんて考えておられないでしょうね」

「言っとくがね、20%値下げすれば取引成立としよう。うちの事業部に入り込めれば、手堅いし、大きいぞ!」

「支払いの予定をお話しするなんてとんでもない。うちはそういう点は、至って堅いんですよ」

「こんな値段だなんて冗談じゃない!まともな話かと思ったのに。だれを相手にしてると思ってるんだ。そこらの青二才だとでも思ったのか!」

 こんな展開になろうとは、予想だにしなかったのではないか。時間をかけて顧客の信頼と好意を勝ち取った。そのニーズを満足させ、人間関係も大切にしてきた。コンサルティングも提供したし、顧客志向も十分心掛けてきた。ありとあらゆる営業手法を駆使したし、説得力にも、ユーモアのセンスにも自信があった。

 それなのに、いざ話をまとめる段になって、よき友であるはずの顧客は突如フン族のアッティラ王に豹変し、都合のよい条件を要求し、売り手のマージンをかすめ取って逃げようというのだ。儲からない取引に応じるか、これまでの努力のすべてを諦めるか。厳しい選択を迫られることになった。

 ただし、このようなジレンマはよくあることだ。事実、商談がまとまらないことは日常茶飯事である。

 とはいえ、長年の人間関係に負うところが大きいビジネスの場合、買い手(顧客)が勝ち、売り手(営業担当者)が負けるというWin‐Loseの状況だけは何とか避けたいものだ。なぜなら、分の悪い取引から手を引くことになると、後々まで悪影響を及ぼす結果となるからである。