分権化だけでは変化に適応できない

 現在のように波乱に満ち、市場競争が熾烈に繰り広げられる環境下では、柔軟かつ俊敏な対応が求められる。この点について、多くを語る必要もなかろう。

 技術革新、法制度の変更、グローバリゼーションなど、将来の予測を困難にしている要素は2つ3つにとどまらない。先見あふれる戦略家ですら、逆風に翻弄されているのが現状である。いま企業に問われているのは、俊敏かつ迅速に動くべきか否かではない。いかにして俊敏になるかである。

 そのためのアドバイスは、どれも驚くほど一致しており、なかでも複雑かつ多角化の進んだ大企業には、「組織の分権化」が処方箋となっている。すなわち、意思決定の権限を、事業部に、あるいは新技術やライバル、顧客に最も近い者に委譲せよと。

 このようなアドバイスが再三再四繰り返され、しかも疑いもなく支持されてきたため、これを「経営の定石」と考える向きは多い。ただし、そもそも定石というものは、いつの時代も必ず有効とは限らない。

 我々の研究から、不確実な市場に効果的に対応するには、多くの場合、本社が指示をより多く──けっして少なくではなく──発する必要があることが判明した。

 また、多角化企業を研究した結果からは、変化が激しく、将来の予測が難しい産業では、本社部門が積極的に関与し、各事業部の「戦略スコープ」(範囲)を定めなければならないことも明らかとなった。

 さらに、一つの企業体として市場で効果的に戦う場合、各部門間で協力すべきタイミングや内容の決定は、CEO(最高経営責任者)や選り抜きの経営スタッフの手に委ねられるケースが多いことも示された。

 柔軟な組織を戦略的に構築するという本社の役割は、経営幹部たちが対応すべきほかの事柄にも次々と影響を及ぼしていく。たとえば、事業部をグループにまとめるべきか、給与体系をどうすべきかといった問題である。その結果、安定し、変化が少ない環境下にある多角化企業が抱える課題とは基本的に異なる、一連の経営上の課題が発生する。

 本稿では、スプリント、WPPグループ、テラダイン、およびバイアコムの4社の例を検証することにより、事業部をダイナミックに管理する意味、そのマネジメントの特徴について探っていく。

[スプリント──(1)]
長距離通信と地域通信のコラボレーション

 本社には、なぜ「戦略的柔軟性」(strategic flexibility)が必要とされるのか。これはスプリントの成功例が如実に示している。