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変化を予測するか
変化に適応するか
歴史的に見ても、1990年代の企業経営者たちも同情に値する存在と言えるだろう。突如インターネットが旋風のごとく現れ、既成のマニュアルを引き裂き、ありとあらゆるビジネスを混乱の渦に巻き込み、ニュー・エコノミーという現象まで引き起こしたのだから──。
そして、コンサルタントたちに救いを求めたところ、企業経営のあるべき姿について、まったく異なる2つの理論を差し出した。
第1のアプローチは、「ビジネスプロセス・リエンジニアリング」(BPR)である。経営コンサルタントのある一派は「ビジネスプロセスを改革できる企業こそ、長期的な競争優位を築きうる」と説いた。多くの大企業はその言葉どおり、何百万ドルもの金、大多数の人材、膨大な時間を投じ、BPRに賭けた。
『フォーチュン500』に名を連ねる一流企業に「BPR担当副社長」が続々と誕生しているその最中、「BPRなどもう古い」という声がどこからともなく聞こえてきた。そこに登場したのが「ナレッジ・マネジメント」である。その趣旨は「社内に埋もれる知識を掘り起こした企業こそ未来の勝者」たりうると──。
BPRとナレッジ・マネジメント、まったく異なるアプローチである。そのことは、前者から後者への急転回にきりきり舞いさせられたおかげで、多くのビジネスマンが思い知るところとなった。
BPRとは、人と情報を組織の構造によってコーディネートすることであり、いわばトップダウンの発想である。「企業価値の源泉は明らかにすることができる」という前提に立つ。さらに「競争環境は予見可能である」とも考える。
一方、ナレッジ・マネジメントは効率よりも効果に着目する。こちらはボトムアップの発想だ。知識を育む最善策は、社員が業務上の諸問題に対処する際の機転やアイデアを捕捉することであるという考え方である。
また、ナレッジ・マネジメントは「価値の源泉はどこにでも存在する」と前提する。そして「競争環境は予見不可能」と認める。
プロセスとプラクティスはトレードオフなのか
経営手法にも流行りすたりがあり、移り変わるのが常である(さもないとコンサルタントはみな失業してしまう)。しかし我々が考えるところでは、BPRからナレッジ・マネジメントへの移行は、単なる流行というよりはむしろ本質的な流れである。
その結果、マネジャーたちが日々格闘しているジレンマが浮き彫りになる。すなわち、「プロセス」(公式に定められた固定的な体制)と「プラクティス」(仕事が遂行されている実態)との間における、厳しい綱引きである。



