型破りなトリロジー大学

 新人研修(boot camp)について知らない人はいないだろう。実際に体験した読者も多いことだろう。私も新人研修プログラムの作成に一再ならず携わってきた。

 正直なところ、プログラムの違いこそあれ、内容と成果はさほど変わらない。製品や市場の知識をはじめ、社内のコア資源の利用方法といった一連の知識を詰め込むことが主眼になっているのが一般的だ。

 ゼネラル・エレクトリック(以下GE)やフォード・モーター(以下フォード)などのプログラムは非常によくできていて、実際の業務に沿った課題を与え、さらに厳しい締め切りを設けるので、問題解決には緊密なチームワークが要求される。これは、以前私が「凝縮された行動型学習」(compressed action learning)と呼んで別の場所で紹介した手法である。筆者はこうした企業研修の全貌を調査し、すべて掌握したと思っていた。

 しかし、「トリロジー大学」(以下TU)は違っていた。私がTUに出会ったのは1998年で、行動学習のベンチマーク調査の一環として、さまざまな企業内大学を調べようと全国を回っていた時だった。

 TUを調査し始めて何日も経たないうちに、他の新人研修プログラムと一線を画するものだと気づいた。それどころか、それまで最高と思っていた研修プログラムがいきなり色あせてしまった気さえした。

 それ以来、TUの型破りなアプローチと驚くべき成果を記録にとどめるため、TUで何百時間もの時間を費やしてきた。蛇足かもしれないが、ここで私の立場をはっきりさせておいたほうがよいだろう。2000年、トリロジー・ソフトウエア(以下トリロジー)の組織改編に際してコンサルタントとして短期間仕事をした以外、同社およびTUに対して一介の観察者という立場を守っている。

 新入社員の力を極限まで引き出そうと、アメリカ合衆国海兵隊の基礎訓練をモデルに、企業内研修プログラムを作成してきた。そこでは毎日のように解決困難な課題が与えられ、何とかクリアすると翌日さらに難しい課題が待っている。

 思わず怖じ気づいてしまう過酷な訓練だが、それだけに乗り越えた後には「何でもこい」という自信が身につく。さらには新入社員同士の連帯感と組織への帰属意識も高まる。

 自信を持たせ、同僚や組織と心理的な絆を築くこと。通常、新人研修ではこの2大目的に全力が注がれ、それらを達成することは、大きな収穫を意味している。一流企業がこの種の研修プログラムに力を入れるゆえんである。

 80年代半ば、私はGEのクロトンビル・リーダーシップ開発研究所所長として、「コーポレート・エントリー・リーダーシップ・カンファレンス」(Corporate Entry Leadership Conference)という企画に携わっていた。