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IBMでは特許収入が税引前利益の9分の1を占める
ゼロックスのリチャード・トーマンは、異色のCEO(最高経営責任者)である(2000年当時)。
「フォーチュン500」のCEOに「どのようにして株主価値を高めますか」と尋ねると、たいてい、「売上げの増加、時代の最先端を行くような製品の提供、M&A(合併・買収)の推進」といった答えが返ってくる。ところが、1999年夏から売上高200億ドルのゼロックスを率いるトーマンは、そのような「ありきたりの戦略」では不十分だと考えている。
彼が取る戦略は、目先の決算を重視した、これまでの発想や慣行に染まり切った人々には、どうにもとらえどころがない。何しろ、バランスシート(貸借対照表)にすら載っていないのだから。
トーマンは、こう宣言する。「知的財産ですよ。私は確信しています。知的財産をいかにマネジメントするかによって、ゼロックスがどれだけ大きな付加価値を生み出せるかが決まる、とね。これは当社に限ったことではありません。知的財産をうまくマネジメントできる企業が成功するというのが時代の趨勢ですよ。それが無理な企業は、いずれ表舞台から姿を消すことになるでしょう」
「知的財産?」5年前に、この言葉を耳にしたCEOの多くは、その意味がわからず、戸惑っていたものだ。戦略に取り入れるなど思いも寄らないことだった。現在でも、実態はさほど変わっていない。
「特許、商標、著作権といった知的財産に関する問題は、法務部門に任せておけばよい。トップは、他社との競争を勝ち抜くためにも、より本質的な戦略に集中しなくてはならない」というのが、依然CEOたちの常識となっている。
しかしトーマンは違う。彼にとって知的財産権は、単なる法律上の権利ではなくビジネスの道具なのである。他のCEOにとっては法務部門で埃をかぶる「さして重要ではない書類」が、トーマンの目にはレンブラントの名画のように映る。それは、利益と競争優位をもたらす「埋もれた宝」なのだ。
トーマンはなぜ、このように考えるようになったのだろうか。話は、彼がIBMでCFO(最高財務責任者)を務めていた時代にさかのぼる。当時彼は、知的財産を有効活用すれば、莫大な特許ライセンス収入が得られることを肌で感じたのだ。
IBMの特許ライセンス収入は90年には3000万ドルだったが、いまでは10億ドルに届く勢いだ。その増加率たるや実に3300%。しかも、この10億ドルのほとんどがフリー・キャッシュフローで、税引前利益の9分の1を占める。
これだけの額がそのまま純利益として残り、翌年以降も利益として期待できる。製品やサービスを販売して同じ金額を稼ぐには、売上げを200億ドルも増やさなければならない。別の言い方をすれば、グローバルで見たIBMの総売上げの4分の1に当たる金額を増やさなければならないわけだ。



