開示の要諦は「期待に応え、意思を示す」
――サステナビリティへの取り組みに関しては、情報開示に頭を悩ませている企業も多いかと思います。サステナビリティ関連の情報開示は、どのようにあるべきだとお考えでしょうか。
中村 情報開示はそもそも、読み手の意思決定に影響する情報、言い換えると、マテリアル(重要)な情報を提供することが目的です。わかりやすく言えば、適切な意思決定をしたいというステークホルダーの「期待」に応えることにほかなりません。

サステナビリティ・アドバイザリー部
ディレクター
公認会計士/サステナビリティ情報審査人
中村良佑氏
サステナビリティ情報の開示については、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が策定した基準がグローバルスタンダードになりつつあります。しかしこの基準は原則主義であり、細かい開示項目については企業の判断に委ねられています。したがって、企業としては1on1、学術論文、他社の動向などあらゆるチャネルを通じて、投資家をはじめとするステークホルダーが何を求めているのかを見出す必要があります。
一方で、ステークホルダーから「会社としての意思」を問われた場合に備え、サステナビリティ経営の核となる「パーパス」をしっかり固めておくことも重要です。「社会のためにこれを成し遂げたい」という志がないと、情報開示が体裁を整えただけのものになりかねません。
――そうした情報開示を行ううえで、ホリスティックアプローチとシステミックアプローチはどのように役立つのでしょうか。
中村 現状、ISSBが策定している具体的なテーマ別の基準は気候関連(IFRS S2号)だけですが、生物多様性、さらには人的資本への拡大が予定されています。これらのサステナビリティテーマ間にもトレードオフが生じうることからすれば、今後、ホリスティックな見方が求められるのは間違いないでしょう。
また、システミックな視点を持つことも不可欠です。いまや企業は自社の温室効果ガス排出量だけでなく、スコープ3と呼ばれるバリューチェーン全体の開示が求められており、上流と下流の企業に情報を提供してもらう必要があります。その際、上流・下流の企業からすれば、自社の排出量の開示が求められないとしても、それらの企業のスコープ3開示のために情報を提供する必要があり、開示の実務が積み重なるにつれて、より質の高い情報、さらには取り組みが求められることになります。つまり、求める側も求められる側も、バリューチェーン全体を意識せざるをえないのです。
開示内容は国際的に比較されるため、競争力の観点からも、システミックな視点を持ち、内容の伴った情報開示に努める必要があります。
――最後に、読者へのメッセージをお願いします。
中島 今回発刊した『サステナビリティ新時代 成果を生み出すホリスティック✕システミックアプローチ』は、サステナビリティ経営を具体的に実践するための指針となるような書です。サステナビリティに関して、今後起こりうることや取り組みのヒントを得られる内容になっています。サステナビリティ経営の羅針盤としてご活用いただけたら幸いです。
齊藤 脱炭素の取り組みが人権やネイチャーポジティブを毀損するようなトレードオフは許されない時代です。ホリスティックアプローチで自社の環境経営戦略を見直し、環境・社会価値と経済価値を最大化する最適な戦略を見つけていただければと思います。
中村 真の変革を起こすには、人のマインドにアプローチする必要があります。マインドを動かすのはパーパスや志に基づいた行動です。情報開示一つ取っても、単なる書類作成の作業ではなく、そのような行動やマインドの変革につなげていくことに取り組む企業が増えていくことが望ましく、本書がその一助となることを期待しています。
[書籍案内]
『サステナビリティ新時代 成果を生み出すホリスティック✕システミックアプローチ』
PwC Japanグループ 著
定価:2200円(本体2000円+税10%)
発行年月:2025年7月
SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)を取り巻く外部環境は目まぐるしく変化しており、規制の強化や新しい技術の開発などが高速で進行していることからその推進の難易度はむしろ上がっている。本書では、環境・社会・経済すべての価値を向上させるSXを実現しようとする日本企業へ方向性と方法論を提示する。
PwC Japanグループ
URL:https://www.pwc.com/jp/ja/services/sustainability.html