マネジメントの質はリーダーの能力次第

 1991年、私がCEO(最高経営責任者)に就任した当時、アライドシグナル(現ハネウエル)はとにかくひどい状態だった。社員の士気は低く、株価は低迷し、営業利益率は5%以下で、ROE(株主資本利益率)はわずか10.5%という状態だったのだ。

 私は再建の道を思い描こうとしたが、何よりも悩み深かったことは、ビジネス・コントロール(各事業部門の管理)チームの非力さであった。競合他社と互角に闘うことすら程遠いレベルで、リーダー候補の人材もいなければ、将来のリーダーが育つ見込みもなかったのである。

 それから8年の年月が流れた99年、ハネウエルとの合併が完了した頃には、アライドシグナルのビジネスは順調に成功を収めるようになっていた。91年当時に比べ、株主に対してはほぼ9倍近い収益をもたらし、営業利益率は3倍に、ROEは28%近くまで上がった。

 しかし、アライドシグナルの成功が顕著に表れているのは、実はこのような数字上ではなく、我々経営陣の「質」である。

 結局のところ、一流のリーダーなくしては、ビジネスの成功はありえない。経営陣の質を最も正確に示す尺度は、おそらく、過去3年のうちに他社に引き抜かれていったトップ・エグゼクティブの数なのではないか。

 事実、アライドシグナルのトップ・エグゼクティブは、次々と他社に移籍している。

 ポール・ノリスは98年に、アライドシグナルの特殊化学事業から引き抜かれ、W. R. グレースのCEOに就任した。ウィリアム E. アメリオは自動車部品事業部門をきわめて順調に運営していたが、2000年にNCRのCOO(最高執行責任者)に就任。他にも、パーキンエルマーのCEOとなったグレゴリー L. サミー、アメリカン・スタンダードのCEOとなったフレデリック M. ポージズ、レイセオンのCEOとなったダニエル P. バーンハム等々、枚挙に暇がない。

 もちろん、彼らがアライドシグナルから去っていったことは残念だったが、それは同時にアライドシグナルにおける我々の努力の証でもあった。

 そのようなトップ・エグゼクティブたちの急成長は、偶然の産物ではない。私はリーダーたりえる人材を採用・育成することに、過剰だと思われるほどの時間と、心血を注いできた。

 おそらく、CEOに就任してから最初の2年間は、一日のうち30~40%を費やしたように思う。これは、CEOにすれば結構な時間量である。