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地味な企業の経営トップは退屈か
少し前のこと、ある記者がネスレのCEO(最高経営責任者)ピーター・ブラベックに「世界最大の食品会社のトップ・マネジメントの職に退屈していないか」と尋ねたことがある。何しろネスレは、野心にあふれ、世間の注目を一身に集める企業とは対極に位置しているからだ。
ネスレは、技術に力を注いではいるが、それを戦略の中核に据えてはいない。成長も重要視するものの、それをコントロールすることを好む。才能あふれるプロフェッショナルを求めはするが、突飛な言動に訴えたりしない謙虚な人材を望んでいる。
退屈ではないかという質問は、ブラベックを当惑させると同時に興を湧かせるものだった。前者は、彼にはネスレをウォールストリート好みの華麗な企業にしたいという考えなど毛頭なかったからだ。また後者は、今日の企業トップの多くがそうであるように、「容赦なく変革せよ」という四方八方からの要求に疑問を抱いていたからである。
単に着実に成功を続ける企業を経営する──それだけで十分ではないのだろうか。ブラベックはそうとは考えていない。だからこそ、いまのネスレがかくあるための要素を見つけ、これを強化することがトップの最も重要な役割だと認識している。
たしかに、激動する市場で生き残るためには、いかなる企業にも変革が必要であることはブラベックも認めている。しかし、何もかもを変えなければならないわけではないとも言う。そのようなやり方は、企業の存続を危うくするし、社員たちも大変な目に遭うからだ。ブラベック曰く、「急進的な変化を求めないというスタンスはCEOにはたやすい」
現在、ブラベック率いるネスレは過去最高の業績水準にある。しかも、ネスレが創業以来134年間にわたって業績不振とほぼ無縁であったことも事実である。
ネスレは、1867年にスイスのヴェヴェーに乳幼児用粉ミルク会社として誕生し、いまも続く企業買収戦略を積極果敢に実施しながら急成長を遂げてきた。いまや、地球上のありとあらゆる国に進出し、インスタントコーヒーの〈ネスカフェ〉から、ミネラルウォーターの〈ペリエ〉、キャットフードの〈フリスキー〉に至る、数千種もの製品を販売している。
99年の売上高は470億ドル弱、利益は30億ドルだった(囲み「ネスレグループの売上げと純利益」を参照)。ROS(営業利益率)は約6.3%で、ある種の基準からすれば目を奪われるほどの数字ではないが、それでも大したものだ。現在、同社は総勢23万人の従業員を抱え、500カ所以上の工場を擁し、年間6億ドルの予算で17カ所の研究開発施設を稼働させている。
ネスレグループの売上げと純利益
ネスレはチョコレートとコーヒーで有名だが、パスタから栄養補助食品の〈パワーバー〉に至るまで、ほぼありとあらゆる食品・飲料を生産している、スイスのコングロマリットである。
その製品は、離乳食の〈グッドスタート〉から、高齢者や寝たきりの病人向けの〈クリヌトレン〉まで、栄養摂取というニーズに一生涯にわたって完全に応えられるほど、多岐にわたっている。
ネスレは、ミネラルウォーターでは世界市場を支配しており、人間の食品だけでは満足できないかのようにペット用食品も数多く生産している。多角化を目的に、アメリカのアイ・ケア製品会社アルコンを傘下に置くほか、化粧品のロレアルにも26%出資している。
以下は、ネスレの──華やかさには欠けるが──堅実な業績を、過去10年間にわたってまとめたものである。
ネスレは、毎年の業績に悩んだことはなかったが、社内の官僚主義の排除には手こずってきた。




