世のあらゆる企業が、ドットコム企業とその予備軍のどちらかに分類されるようになっている。

 ドットコム企業については、改めて説明するまでもないだろう。オンライン上で事業を展開する生粋のインターネット企業のことである。そのほとんどは設立から5年にも満たず、サイバー・スペースを唯一の活動の場としている。

 損失を出し続けている点も特徴といえるが、それでもイーベイ、アマゾン・ドットコム(以下アマゾン)、ヤフーのように脚光を浴びるパイオニア企業は、産業のダイナミクスを変え、働く人にあこがれのキャリアを提供し、新しいタイプの勤務先の象徴となっている。

 これに対して、インターネット事業に乗り出そうとしている「ドットコム予備軍」はすでに組織として確立されており、その多くが非インターネット分野で業界をリードするポジションにある。

 このような企業は、「非インターネット企業」──あるいは、オフラインで事業を展開する企業、物理的な企業、よく言っても「クリック・アンド・モルタル企業」──と片づけられてしまうことに憤慨しており、何としてもドットコム企業の仲間入りをしたいと考えている。

 一部には、他企業をはるかに凌ぐスピードで目標に向かって邁進している企業もある。

 筆者は、1999年11月から2000年7月にかけて、ドットコム企業とその予備軍に関する調査をグローバルに実施し、インターネット時代にふさわしいスピードでその結果を取りまとめた。

 本調査に際して、とりわけ大きな関心を寄せたのが、最も成功しているドットコム企業に共通する要因とその道程はどのようなものか、という点である(囲み「ドットコム化に関するグローバル調査」を参照)。

ドットコム化に関するグローバル調査

 本稿のベースは、1999年11月から2000年7月にかけて実施されたドットコム企業に関するグローバルな調査の結果である。

 調査チームはアメリカ、カナダ、ヨーロッパ、アジアの企業に訪問してインタビューし、イスラエルとラテン・アメリカ諸国の企業には電話で話を聞いた。加えて、全世界に散らばる数百の企業にアンケートを依頼した。

 調査に当たっては、いくつかの仮説を設け、それを次の三通りの方法によって検証した。

1. ハーバード・ビジネススクールの調査チームによる300回以上のインタビューを実施した。

 北アメリカ、ヨーロッパ、アジアの80近くの企業や組織を対象に、択一形式の質問をしてeビジネスにふさわしい組織文化とは何かを探ると共に、自由回答形式で質問し、ベスト・プラクティスや事例を収集した。

 対象としたのは、あらゆるタイプの既存企業と新興企業、さらには少数のプロフェッショナル組織(法律事務所やコンサルティング・ファーム)、教育機関、業界団体などである。

2. 三大陸の20以上の企業には、詳細なケーススタディを作成するために数次のインタビューを実施した。

3. アンケート調査は『ワールドリンク』誌(世界経済フォーラム発行)と『インク』誌の協力を得て、ペーパー媒体とオンラインによって、規模もタイプも実にまちまちの785の組織から回答を得た。

 北アメリカとヨーロッパの組織が多かったが、ラテン・アメリカとアフリカからも回答が寄せられた。

 ドットコム企業への進化を目指す企業の明暗を分けるものはいったい何なのか。

 この答えを見つけ出すために筆者たちは、アンケートやインタビューの結果に基づき、既存の非インターネット企業を「先行グループ」と「後続グループ」の2グループに分けた。

 先行グループは、主要な業務プロセスを競合他社よりも早期にかつスピーディにインターネットに対応させ、明確な目標に向けて「確実に前進している」と充実感を表明している。このグループに含まれるのは、業界で最もインターネット対応が進んでいる「先頭集団」とそのすぐ後につける「2番手集団」である。

 後続グループは動きが鈍く、インターネットを限られた分野でしか利用していない。競合他社に後れを取っており、自社のもたつきにいらだちを覚えている。調査チームは、これら2グループがどのようにインターネットを事業に活用しているかを研究した。

 調査の結果、ドットコム企業とドットコム予備軍は対照的な企業文化を持っていることが明らかになった。

 大企業に「ウェブの世界で何を目指していますか」と質問すると、多くの場合、「サービスを実験的に提供しながら慎重に様子を見ることです」という答えが返ってくる。一方、ドットコム企業からは「世界的なリーディング・カンパニーになること!」という威勢のよい声が聞かれる。