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360度評価法への不安と疑問
受け取った瞬間「ドキッ」とさせる電子メールと言えば、人事部からの「360度評価法」導入の通達に勝るものはない。
けっして、この評価方法自体が「悪」だというわけではない。むしろ、360度評価法を導入したことで、過去10数年来、従業員の業績管理が飛躍的に改善された。これが衆目の一致する見解である。
唯一、組織のトップに立つ人たちを悩ませているのが、この360度評価法の一環として、従業員に「同僚評価」(peer appraisal)をやらせることである。この作業は人間関係をいたずらに緊迫化させるだけでなく、その処理に集計業務はいっそう煩雑化し、膨大な時間を要する。それゆえ、同僚評価は実施するに値するか否かと悩むのも無理からぬことだ。
この疑問に対して、私は「同僚評価はおおいに有意義である」と断言しよう。同僚評価はやり方次第で、上司から部下へのフィードバックに勝るとも劣らず重要なツールとなり、360度評価法の効力を全体的に底上げする。
また「このような同僚評価を“副作用”を伴わずに実施できるのか」と懸念される向きには「可能である」と答えたい。ただし、トップに立つ人間が、以下に挙げる「同僚評価のパラドックス」を理解し、これをできる限り回避すべく努力することが条件となる。
過去10年間、私は360度評価法を支える理論やその実践例に注目し、研究を重ねてきた。最新の研究では、従業員数2~30人の新興企業から『フォーチュン500』の大企業のなかから、17の企業──業種はハイテク・メーカーからプロフェッショナル・サービス会社に及ぶ──を対象に、360度評価法がどのように実施されているのかを調査した。
今回の調査・研究の課題は、「同僚評価を従業員の業績向上に結びつけるには、どのような条件が必要となるのか」「同僚評価がうまく機能する場合と大失敗に終わる場合に二分されてしまうのはなぜか」、さらには「トップに立つ人間が、いかに従業員間の不安を和らげ、いかに同僚評価の結果を組織の活力に結実させるか」にあった。
結局、「同僚評価は難しい。その過程において4つのパラドックスが存在する限り、そうならざるをえない」という結論に達した。直接の問題解決には程遠い結論だが、とにかく4つのパラドックスについて紹介したい。
(1)役割のパラドックス
被評価者に対して、同僚と審査員という2つの立場を両立できない
(2)グループ業績のパラドックス
個人に焦点を絞ると、グループ全体の業績を犠牲にしかねない



