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多国籍企業が陥る流通戦略の落とし穴
成熟企業が新たな販路を求める時、たいがい新興市場へと進出するものだが、その際には現地の流通会社と提携して、リスクを慎重に抑える戦略を取る。参入当初は売上高が伸び、収益も面白いように増えるため、進出は正しい判断だったと称賛される。
だが、やがて売上高の伸びが鈍化し停滞し始めると、経営陣は危機感を覚えて何とか原因を突き止めようとする。そしてまもなく、「現地の流通会社はたしかに好調な出だしをサポートしてくれたが、いまやその知恵を使い果たしてしまい、期待に応えられなくなったことが、売上高が足踏みしている原因だ」と考えるようになる。
多国籍企業は発展途上国に進出するたびに、これと同じパターンを繰り返してきた。
多国籍企業の役員たちは、早晩、現地の流通会社の実績に不満を抱くものだ。そこで性急に荒療治に着手し、現地の流通会社を買収したり、流通に関する権利を取り戻して子会社を設立したりする。わけても多いのが後者の例だが、どちらにしても混乱を招くことに変わりはない。他社に任せていた流通業務を自社に引き取ることは、一般にコスト負担が大きく、マイナスの結果に終わる。
そのほかにも新たな問題が引き起こされるが、困ったことにそれが表面化するのは時間が経ってからだ。業績を立て直すために手荒い措置を取りすぎて、網の目のような流通網にがんじがらめになってしまったと役員たちが気づくのは、何年も後になってからなのである。
その時の落胆がどのようなものかは、アメリカのある大手特殊化学製品会社のCEO(最高経営責任者)の言葉に端的に表れている。
「結局は、子会社を活用したほうが常に高い成果を得られるのではないだろうか。売上高は伸びるし、事業活動もコントロールしやすい。だがそれでも、未知の市場に参入するにはやはりその国の流通会社の力が必要だ。だから、コントロールや業績といった問題について揉めることなく流通業務を子会社にうまく移管する方法はないかと、いまでも模索し続けている」
筆者は、多国籍企業が新興市場に進出する際に直面する問題とその是正をテーマとするフィールド調査を、消費財、産業財、サービス分野の8社を対象に、2年間にわたって実施してきた(8社はのべ250に上る新興市場に参入している)。この調査ではそれぞれの市場における各社の国際流通戦略を調べた。
その結果わかったことは、業績の低迷とその是正措置の「失敗パターン」に陥らないためには、「悪いのは流通会社だけではない」と認識する必要があるということだ。参入当初からマーケティング戦略に配慮していれば、失敗パターンは避けられる。
本稿では、発展途上国に進出する多国籍企業の流通戦略によく見られる問題点を洗い出し、それを未然に防ぐための7原則を紹介する。長期的な視点に立てば、多国籍企業は販売・流通面で現地の流通会社と協力するのが得策と考えるようになるだろう。このことは、マーケティング戦略やグローバルな法人顧客への対応を自ら行うようになった後でも変わらないはずだ。



