顧客基盤の拡大が成長につながるとは限らない

「成長しなければならない」という強いプレッシャーの下、多くの企業が新たな層の顧客を求めている。顧客基盤の拡大は、ビジネスにとって常に好材料だと思われる。買い手が増えれば売上げが増加し、市場シェアも拡大するはずである。

 たとえば、ザ・ノース・フェイスは2010年代、このような道筋をたどって成長を遂げた。従来のアウトドア志向の顧客に加えて「都会の探検家」を取り込むために、ストリートウェアに大きく舵を切ったのだ。新たな顧客層が加わったことで、同社の売上高は2015年の23億ドルから2024年には36億ドルに増加した。

 しかし、新しい顧客セグメントをターゲットにすることが、必ずしも成長につながるとは限らない。新規顧客と既存顧客のニーズ、価値観、嗜好、アイデンティティが異なる場合、深刻な課題を抱えることになる企業も少なくない。時には戦略が完全に裏目に出て、新たな顧客を獲得し損ねるだけでなく、既存の顧客が去ってしまうこともある。せっかくの努力が、ビジネスを拡大するどころか、ブランドイメージを傷つけ、顧客のボイコットや株価の下落、売上げの減少を招いてしまうのだ。

 たとえば、百貨店のコールズは2010年代、若い世代で価格感度の低い顧客を引きつけようと、セフォラやベビーザらスといったブランドの比較的高額な商品の売り場面積を増やし、そのために自社ブランドの衣類の品揃えを縮小した。

 ところが、このように仮説を立てて新規顧客に訴求しようと改革した結果、頼りにしてきた昔からの顧客に対する訴求力は低下してしまった。コールズに高いロイヤルティを持つ顧客は、自分たちが求めてはいない高価格帯の商品のために、希望する低価格帯の商品が削られたことに不満を感じたのである。2018年から2025年にかけて、同社の売上高は20%減少し、株価は89%も下落した。2021年から2024年の間に、コールズのCEOは2回交代した。

 ランズエンド、エッツィー、セフォラ、バドライト、ウェイトウォッチャーズ、スターバックスも、新しい顧客を取り込もうとして反発に遭ったブランドである。その中には、どうにか従来からの顧客の信頼を取り戻したケースもあれば、決定的に失敗したケースもある。

 しかし、全体的に同じことがいえる。ブランドが新しい顧客セグメントを取り込んで成長する、あるいは成長しようとすると、従来の顧客セグメントとの間に摩擦が生じるリスクがあるということだ。さらに、ブランドが大きくなればなるほど、異なる顧客セグメントが混在するようになり、緊張が生じるおそれは高まる。

 そうした問題を回避する、あるいは起きてしまった問題を解決するには、顧客セグメント間の関係について理解を深める必要がある。

 筆者らは、幅広い業界のブランドを対象に学術研究、ケーススタディ、コンサルティングを行う中で、顧客セグメント間の相互関係には4つの基本的なタイプがあることを発見した。本稿では、このような相互関係のタイプを紹介し、そこからどのように予測可能な形で摩擦が生じるかを示したうえで、実際に摩擦を特定して解消する方法を説明する。これらの戦術は、企業が先を見越して衝突を回避しようとする場合にも、すでに難しい状況に陥っていて、そこから抜け出す方法を求めている場合にも通用する。

顧客セグメントの相互関係

 顧客セグメント間の関係がどのようなものになるかを決定づける主な要素が2つある。