IT時代であろうとセムコはセムコである

 セムコは、1990年代、製造業からサービス業、さらにはeビジネスへとそのビジネス領域を拡大していった。その成長を振り返ると、何とも意外なことに、リーダーは部下にビジネスプランをただ丸投げし、現場に任せることが成功のカギだったのである。

 セムコは、時価発行総額で見て1億6000万ドル規模の企業で、南アメリカ大陸に本拠地を置いている。製造業にサービス業、さらにはeビジネスに携わっている。「いったいセムコは何屋なのか」と問われると答えに困る。

 私がこの会社に関わって、かれこれ20年になるが、セムコのビジネス領域を規定することだけは断固として拒否してきた。その理由は簡単である。その結果、従業員たちの自由な発想に足かせをはめ、せっかくのチャンスと遭遇しても、「自分とは無関係」かのように拒否反応を生み出してしまうからである。

 したがって、トップの立場から、セムコのアイデンティティを決定することは避け、むしろ従業員一人ひとりの努力やコミットメント、あるいは創造力をもって現在のセムコをつくり上げてきてもらった。

 この一風変わった経営哲学が、人々の関心を集めたようで、これまで世界各国から2000人ものトップ・マネジメントの方々が、サンパウロまで見学に訪れてくれた。ただし、セムコのやり方を実際に試みようとする企業は稀である。

 従業員たちに、いつ、どこで、何をすべきか、さらには報酬形態まで決めさせるやり方に、大半の企業が臆病になるのも無理はない。

 ところが最近になって、IT(情報技術)の威力が激増し、インターネット時代へと本格的に突入した。これと同時に、従来のビジネス環境も大きく様変わりし、人々の考え方も同様に変化しつつある。

 面白いことに多くの企業が、従業員の創造性や柔軟性を高め、その発想を刺激し、才能を自由に発揮させる方法を必死になって探している。これは、セムコが過去20年間ずっと試行錯誤してきたことである。とはいえ、セムコが将来の企業像であるとはいささか僭越だが、(何とも、当社は風変わりな会社であるので……)。

 ただし、セムコの基本原則のなかには、ニュー・エコノミー時代を迎えて、ますます一般的、ひいては必要不可欠となる「何か」もある。セムコは、その本質を変革し続けられる企業であることに間違いない。