従来の投資の意思決定は誤った前提に縛られている

 企業が資本投資(以下投資)を行うのは収益機会を創出し、開発するためである。またそれこそが企業の、企業たるゆえんである。

 研究開発投資は特許や新技術という形に結実し、収益機会の道を開く。これらを工場の新設やマーケティング投資を通じてビジネスに結び付けることができれば、収益機会を得ることができるのである。

 赤字事業から撤退することもまた、一つの投資だと言える。企業が契約関係を解消するために必要な支出、たとえば退職金のようなものは、初期投資と見なすことができる。この場合、投資の「見返り」は、将来発生する損失の軽減ということになる。

 投資は本質的に、オプションにかかわる問題である。ここでいうオプションとは、将来において何らかの行動をとる権利(義務ではない)のことを指す。すなわち、投資機会は、オプションと同義だということになる。

 我々経済学者は1990年代前半から、投資にオプション的な要素があると考え、研究を深めてきた。そのように考えると、投資の意思決定を下す際の理論と実践において、大きな変化が起きることを発見した。

 というのも、従来のビジネススクールでは、経営トップたちに次のような前提に立って企業経営を行うように教えていたからだ。

「投資の意思決定というものは、条件が変わったときには可逆性(reversibility)を有するものである。逆に、仮に不可逆性(irreversibility)を有するとしたら、その投資は『いま行うか、もしくは二度とできないか』という性格のものである」

 しかし、投資機会をオプションと見なしたとたん、この前提は意味を成さなくなる。不可逆性、不確実性、タイミングの選択といった要素が投資の意思決定をドラスティックに変えるからである。

 本稿の目的は、伝統的な投資の意思決定アプローチが持つ欠点を検証し、より柔軟なフレームワークを提示することである。

 投資理論とは本来、市場環境をはじめとする不確実性に直面している経営トップにとって、新しいプロジェクトに投資するか否かの意思決定を下す際に役立つものでなければならない。