EQはリーダーの必須条件

 企業人ならばだれでも、次のような話を一度は聞いたことがあるのではないだろうか。

・大変知的で熟練した人物が部下を統率すべきポジションに昇進したが、リーダーとしては機能しなかった

・知的能力も技術的熟練度もそれほどずば抜けているわけではない人物が、同様の地位についたら、とんとん拍子に出世した

 このようなエピソードを聞くと、リーダーとして「適切な資質」を持つ人材を発見することは科学より芸術の域に近い、といわれるのもよくわかる。つまるところ優れたリーダーのスタイルがバラエティに富んでいるのだ。控えめで分析好きなリーダーがいるかと思うと、上から自分の主義を無理やり押しつけるリーダーもいる。

 また重要なこととして、状況が違えば、用いるべきリーダーシップの種類も違ってくる。合併話を進める企業には神経の細やかな交渉役を務める幹部が必要であり、方向転換を図る企業にはもっと権威主義的なタイプが必要だろう。

 しかし、大変優れたリーダーには、ある決定的な点で似ているところがあるとわかった。すなわち彼らは、そろって「こころの知能指数」(Emotional Intelligence=EQ)と呼ばれる能力が非常に高いのである。

 かと言って、IQ(知能指数)と技術的熟練度がリーダーシップに無関係というわけではない。これらは重要だが、主に「最低限の能力」として重要であって、経営幹部の道の入り口に立つときの必要条件なのだ。

 これに対して、EQはリーダーシップの必須条件であることが、私の調査や最近のいくつかの研究から、明らかになった。たとえEQを持ち合わせていなくても、最高水準の教育を受け、鋭敏で分析力のある頭脳を持ち、気のきいたアイデアを次々と出すことはできる。しかしそれだけでは偉大なリーダーにはなれないのだ。

 私は同僚と共に、過去1年にわたって、企業現場におけるEQの機能を中心に調査してきた。特にEQとリーダーの高業績との関係に注目した。そしてEQが、仕事にどういう形で表れるかも目撃した。

 それでは、ある人物のEQが高いかどうかは、どうすればわかるだろうか。あるいは自分のEQの水準はどうすればわかるのだろうか。本稿では、こうした疑問の答えを、自己認識、自己規制、動機づけ、共感、社会的技術といったEQの因子を順に取り上げながら探っていく。