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企業戦略の成否を左右するエンタープライズ・システム
エンタープライズ・システム、あるいはエンタープライズ・リソース・プランニング・システム(ERPシステム)と呼ばれる情報技術(IT)は、より優れた情報システムを切望するマネジャーたちには福音のように聞こえる。このようなシステムによって、あらゆるビジネスの現場で、統合された機能横断的なリアルタイムの情報が提供されるようになるからだ。
財務、製造、受注・納品、在庫管理、ロジスティクス、人的資源、顧客サービスなど、バリューチェーンの各構成要素は自動化され、インターネットとつなげれば、従業員、顧客、サプライヤーはその企業の情報に世界中からアクセスできるようになる。ビジネス用トランザクション・ソフトウエアに対するマネジャーの要望のほとんどが、いまや商用パッケージであるエンタープライズ・システムで実現できる。
この種のシステムの人気が非常に高まったのは1990年代後半のことである。SAPやオラクル、ピープルソフト、J.D. エドワーズといったエンタープライズ・システム・ベンダーは急速に成長した。
多くの企業が、自社のビジネスプロセスについて機能横断型の統合を実現するには、リエンジニアリングに取り組むよりはエンタープライズ・システムを導入してしまったほうが楽だと判断したのである。また、2000年問題対応に伴うトラブルを避けるためにエンタープライズ・システムを導入した企業もあった。
ミレニアムのいま、既にエンタープライズ・システムを導入していた企業は、このようなIT投資によって付加価値や競争優位がどれだけ増えたのかという評価を始めている。その一つの視点が、エンタープライズ・システムと企業戦略との関係を検証するというものである。
期待される戦略的チャンス
エンタープライズ・システムを評価する際、何よりも見逃されがちなのが、企業戦略上、エンタープライズ・システムが持つ意味に関する分析である。
単にコンピュータ・システムを導入するだけで、自社のエンタープライズ・システムが持つ戦略的な意味あいについて、ほとんど検討されていないのが実情だ。また、自社の市場競争において、エンタープライズ・システムが大きな意味を持つ可能性があることも理解されていない。
エンタープライズ・システムの競争上の意味に気づいているマネジャーたちもいるのだが、たいていはそのシステムが競争原理をどのように変えるのか、安直な仮定にとどまり、導入後に必要な変更や調整を進めていない。
ITシステムが企業戦略に大きな影響を与えるというのは、特に目新しい考え方ではない。だが、エンタープライズ・システム・パッケージは最も包括的で、しかも高額なITシステムであるにもかかわらず、それが戦略にどのような影響を与えるのか、体系的な知識を得ようと思ってもなかなか思うようにいかない。
エンタープライズ・システムの導入は競争優位を生み出すのか、それともその逆なのか。特定業界におけるすべての企業が同一のエンタープライズ・システム・パッケージを導入したとしたら、その業界の戦略はどのように変わるのか。その場合、エンタープライズ・システムは単に他社とバランスを図るための、つまりビジネスを存続させるためのコストになってしまうのか。



