アプリケーション・ソフトが企業の“神経系”を司る

 予想に反して、マネジャーの多くが2000年問題(以下Y2K)にいささか食傷気味である。日付変更に関わるこの騒動は、法制面だけでも複雑で大きな問題を抱えており、何十億ドルという損害を被る企業が出てくる恐れもある。

 アメリカ証券取引委員会(SEC)は、Y2K関連の訴訟が長引く可能性があると判断し、不利な情報があれば年次報告書(10-K様式)に漏らさず公表するよう、企業に義務づけた。また、Y2K絡みでトラブルが発生した場合、取締役に個人的な責任を追及することもありうる。

 法律関連のコストだけでなく他のさまざまなコストも勘案すると、この問題の影響によりアメリカのGDP(国内総生産)は2000年には0.3%程度押し下げられるという見方すらある。加えて、グローバル化によって事態は深刻化する一方である。つまり、短期的な視点に立てば、海外のサプライヤーへの依存を強めるにつれて、アメリカ企業が直面するミレニアム(千年紀)・リスクは増大するわけである。

 このY2Kの問題は、このような直接コストの増加も確かに見逃すことができないが、最も重視しなければいけない点は他にある。アプリケーション・ソフトが企業の“神経系”を司る中心的存在として急速に浮上しているという点で、Y2Kは我々に警告を発しているのだ。

 この警告を無視するマネジャーは、後にその代償を支払うことになるだろう。顧客や従業員、ビジネス・パートナー、そして投資家が、企業やその製品、サービス、業務運営とどのように関わっていくのか、そのあり方を決定するうえで、ソフトウエアが果たす役割は一段と大きくなってきている。

 顧客のロイヤリティや従業員のモチベーションを高め、ビジネス・パートナーとうまくコラボレーション(協働・共創)し、さらに投資家とのコミュニケーションを図るためには、これらの関係を取り持つアプリケーション・ソフトを使い勝手のよい役に立つものにすることが重要となる。

ITインフラが統合されていないことのコスト

 イントラネットやeコマース(電子商取引)の普及により、ソフトウエアの重要性はいっそう増している。あらゆる企業が、インターネットを基盤とするアプリケーション・ソフトから多大な影響を受けている。商品がコンピュータであろうが生花であろうが、あるいは自動車であろうが、例外は存在しない。

 ところが、CEOや現場のシニア・マネジャーはなかなかソフトウエア関連の課題に取り組もうとしない。その結果、多くの企業では同じアプリケーション・ソフトを動かすために途方もない種類と数のシステムがカスタマイズされ、しかもそれらは互換性を持っていないというのが実情である。

 たとえば、ゼネラル・モーターズ(以下GM)のCIO(最高情報責任者)が推定するところによれば、同社は世界各地で合計7800のシステムを導入しており、そのうち1800以上が資金調達や財務専用であるという。同じような業務をこなすシステムをこれほどたくさん持っているという事実だけでも頭痛の種だが、まして、これらのシステム間に互換性がないとすれば、知識を交換するのはもちろん、データをやり取りしたり共有したりすることも不可能に近くなる。

 しかし、GMやこれと肩を並べる伝統的企業だけが特別というわけではなく、IT(情報技術)企業が同じような問題に直面することも考えられる。とりわけ、企業買収を繰り返して急速に成長してきた企業において、問題が発生する可能性が高い。