「強烈な個性」で他人の心を動かす人々

 今日の産業界の変革を担うCEO(最高経営責任者)には、従来とは異なる目新しさや大胆さがある。彼らを、1950年代~80年代に大企業を支えてきた経営者と比べてみよう。

 かつての経営者というと、マスコミを遠ざけ、広報部が綿密に考えたコメントを発表するのみであった。しかし、現代のCEOたち──ビル・ゲイツ、アンドリュー・グローブ、スティーブ・ジョブズ、ジェフ・ベゾス、そしてジャック・ウェルチといったスーパースター──は、専任の広報担当者を置き、自ら本を著し、インタビューにも積極的に応じ、自分の経営哲学を広めることに熱心である。彼らは毎週のように、『ビジネスウィーク』『タイム』『エコノミスト』といったビジネス誌の表紙を飾っている。

 そればかりではない。産業界の世界的有名人は、いまや我々の公私にわたってその生活の枠組みをデザインする一方、改革しつつある。教育機関には子供に何を教えるべきかを助言し、国会議員には公的資金を何に投じるべきかを伝授する。eコマースの未来から、休日過ごす話題のスポットまで、ありとあらゆる情報を彼らに求めている。

 今日のビジネス・リーダーが過去に例を見ないほど存在感を放つようになった理由はいくつかある。一つには、ビジネスと我々の生活との関わりが以前とは比べものにならないほど密接になっており、企業トップが脚光を浴びる機会が増えたことが挙げられる。また、大変化の真っただ中にある産業界が、ビジョンを明確に示す、カリスマ的なリーダーシップを求めているとも言えるだろう。

 しかし私は、精神分析学者として、また経営トップのアドバイザーとして25年間を過ごしてきた経験から、第3の理由を挙げたい。すなわち、経営トップに立つ戦略リーダーの人格が著しく変化してきている、ということだ。

 人類学者としての私は人間をその行動から理解しようとし、精神分析学者としてはフロイト的な視点で観察する。これらの知識を踏まえた限り、我々が目にする、等身大をはるかに超えた巨大なリーダー像は、いずれもジークムント・フロイトが「ナルシスティック」(自己愛的な)と呼んだ人格に酷似しているように思えてならない。

 フロイトはその著書の中で、「この種の人々は、その『強烈な個性』によって、他人の心を動かそうとする」、心理学上のカテゴリーの一タイプであると説明している。「これらの人々は、他者をサポートし、リーダーの役目を担い、文化的発展の促進あるいは既存の行動規範を破壊する新鮮な刺激材料としての役割に最も向いている」と。

 人類の長い歴史の中で、ナルシストたちは常に人々の心を動かし、未来を指し示してきた。新たな軍事的、宗教的、政治的勢力が社会を支配してきたが、それは、たとえばナポレオン・ボナパルトやマハトマ・ガンジー、フランクリン D. ルーズベルトなどといったヒーローが現れ、社会制度を決定していった結果の出来事なのである。

1900年代初頭
産業界に登場したナルシスティック・リーダー

 時が移り、ビジネスが社会に変化をもたらす原動力となると、ここからもナルシスティック・リーダーが生まれるようになった。今世紀初頭、アンドリュー・カーネギー、ジョン D. ロックフェラー、トーマス・エジソン、ヘンリー・フォードといった人物が新たなテクノロジーを発見し、アメリカ産業界を再編していったときにも見られた現象であるが、現在も同じ事が起きているのではないだろうか。

 ただし、フロイトはナルシズムにはマイナス面もあることを認めている。ナルシストは精神的には孤立しており、非常に疑い深いところがあると指摘しているのだ。脅威を感じると、怒りを爆発させることがある。何かを達成することによって、誇大妄想的な感覚が育つこともある。フロイトがナルシストを「最も分析しにくいタイプ」と評したのはこのような理由からである。