-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
-
PDFをダウンロード
戦略よりも実験、利益よりも成長の「第1世代」
eコマース(電子商取引)の第1世代における戦いは、いわば未開拓地の陣取り合戦だった。インターネット・ビジネスに乗り出すにしても、まっとうな店舗を構えられるだけの資源があれば、だれでも陣地を確保できた。必要なのはスピードに挑戦意欲、そしてサイバー・スペースに関する豊富な知識だった。
かつての成功企業もeコマースでは負け組の烙印を押されたかに見えた。実際、主なeコマース市場に目をやれば、従来型の小売業が市場シェアのトップを走っている分野は一つもない。IT(情報技術)に長けているはずのウォルマートでさえ、いまのところウェブ上では精彩に欠ける。
このような陣取り合戦が繰り広げられていた当時、収益性もしくは利益見通しというものは投資家を魅了するための必須条件ではなかった。事実、アマゾン・ドット・コム(以下アマゾン)はいまだに利益を計上したことすらない。にもかかわらず株式市場は、従来型の書籍販売業と出版産業を併せた発行済み株式の合計よりも、アマゾン1社のそれのほうを高く評価している。
非公式ではあるが、我々はeコマースを起業した人たちに「そもそもどうやれば利益が出るのか」と聞いたところ、やや困惑した表情を見せた。やはり彼らは、利益よりも成長のほうをはるかに重視しているのだ。「戦略」は二の次で「戦術」が重視され、さらには戦術よりも「実験」が優先される。頼みの綱は、どこか買収してくれる企業が現れることなのだ。「問題はほかのだれかに解決してもらおう。ともかく、年200%のスピードで成長しよう」というわけである。
しかし、もう第1世代は終わりを告げようとしている。主だった“土地”はすべて占領されてしまっただけでなく、従来型の小売業も真剣にウェブに取り組み始めている。その証拠に、インターネット関連株も輝きが薄れてきた。
eコマースは第2世代に突入しつつあるのだ。ブランド・メーカー、従来型の小売業、サイバー小売業、サーチエンジン会社といった企業の関心は、縄張りを主張することから、それを守ること、逆に相手の縄張りを奪うことに移ろうとしている。したがって、競争優位性とそのための戦略に注目せざるをえなくなる。バーチャル・コマース(仮想商取引)も、ついに現実的な局面を迎えたのである。
ナビゲーションがビジネスとして確立された
物理的な商取引というおなじみの世界では、ひとくちにショッピングと言ってもなかなか大変である。
たとえば、シャツを1枚買うとしよう。選択肢は無数にある。どれがよいか比較しようとすれば、車を飛ばして郊外のショッピング・モールや繁華街の百貨店を駆けずり回らなければならない。広く探そうと思ったら時間もかかるし、何とも面倒だ。しかも、当然ながら完璧に探し尽くせはしない。もちろんそんなことをする人もいない。消費者は仕方なくメーカーや小売業に頼って、そこで選択された範囲内でナビゲーション(水先案内)してもらう。
裏を返せば、これらの企業は検索コストの高さにつけ込んで、競争優位を手にしているのである。その際、ブランドや広告宣伝から、販促プラン、顧客とのリレーションシップに至るさまざまなナビゲーション・ツールを編み出して、すべてを見比べる手間を省いてやり、ほしい商品を見つけ出せるようサポートする。つまり、売り手はナビゲーション機能をそれなりに支配していると言える。消費者がだれの助けも借りずに情報の網の目を渡り歩くことは難しく、コストがかかるからだ。
実際、多くのBtoCビジネスでは、製品そのものの生産や流通に工夫を凝らすよりも、強力なブランドを構築するなどしてナビゲーションに影響を与えたほうが、はるかに高い収益性をもたらす。



