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いまのところ、オンライン販売はまだ経済活動のごく一部でしかない。にもかかわらず、ビジネス界ではeコマース(電子商取引)をめぐる論議が巻き起こっている。どうやらインターネットは、そしてビジネスを生み出す存在としても、破壊する存在としても、無限の可能性を秘めているかのようだ。
21世紀の幕開けとともに、我々はどんなことを経験するのだろう。
それを解き明かすため、数名の識者にeコマースの未来について語ってもらった。
ハーバード・ビジネススクール教授のクレイトン M. クリステンセン(『イノベーションのジレンマ』の著者)とリチャード S. テッドロウは、インターネットを典型的な「破壊的技術」の一つと考え、小売業の競争原理を変えるものだとする。2人は過去に小売業が“破壊”されたケースを調査し、こうしたパターンが、インターネット上で少なくとも一部では現れていることを突き止めた。
本誌シニア・エディターを務め、過去2年間に発表されたeコマースに関する論文のアンソロジーを数多く手掛けてきたニコラス G. カーが、インターネット上で起こっている経済活動の断片について検証する。カーは、売上げからではなくクリックから利益が生じる、「ハイパーメディエーション」(インターネットにおける仲介業務)の時代が到来すると論じる。
最後に経営コンサルタントでありこの分野に一家言を持つエイドリアン J. スライウォツキーは、ビジネスモデルの進化について幅広く論じた論考を寄せてくれた。スライウォツキーは、eコマースの導入によって消費者が加速度的に権力を握るようになると、企業と顧客との関係も、競合他社との戦術も、根本から変わると考えている。
このように彼らは、今後の展開について非常に異なるビジョンを抱いているが、それは驚くにあたらない。洞察力とは知性のぶつかり合いから生まれるものだからだ。
『ハーバード・ビジネス・レビュー』編集部
Patterns of Disruption in Retailing
eコマースでも繰り返される小売業の破壊の歴史
クレイトン M. クリステンセン(Clayton M. Christensen)
ハーバード・ビジネススクール 教授
リチャード S. テッドロウ(Richard S. Tedlow)
ハーバード・ビジネススクール 教授
小売業界に訪れた4度目の破壊
小売業界全体に「不確実性」が広がっている。その一方、どの企業でも、どの業界団体の集まりでも、どの製品カテゴリーでも、eコマースがらみの話題で持ちきりだ。投資家や経営幹部たちはこの画期的なチャンスを逃がすまいと、勝算の高そうなオンライン小売業に賭けてみようと殺到している。
このような話題やブームにもかかわらず、小売業の行く末が不確実性に包まれていることは疑いようがない。
どこの企業のインターネット戦略が利益を生み出すのかを予測しても無意味である。ただし、明らかにeコマースによって、小売業の競争優位はさまざまなレベルで覆されていくだろう。
もちろん小売業界にもさまざまな変遷があった。この変遷をたどり、そこで繰り広げられたパターンを明らかにすることで、インターネット時代に小売業がどのように進化していくのか、その手がかりをつかむことが可能となろう。
小売業の使命は、そもそも次の4要素と言える。「適切な商品」を「適切な場所」で「適切な価格」をつけて「適切なタイミング」で提供することだ。しかし、その使命を実現する方法は、我々が「破壊的技術」と称するものの出現により一変した(1))。このような破壊的技術がイノベーターの手に渡ると、業界の経済ルールを一変させる新しいビジネスモデルが生み出される。
小売業界を最初に破壊したのは、デパートだった。次の破壊は通信販売(以下通販)の出現による。そして第3の波はディスカウント・ショップの興隆によって起こされた。オンライン小売業は第4の破壊に当たる。
さまざまなインターネット企業――アマゾン・ドット・コム(以下アマゾン)やオートバイテル・ドット・コムのような小売業者、チェムデックスのような流通業者、トラベロシティー・ドット・コムのような旅行代理店、eベイのようなオークション・サイトは、既存の購入方法や販売方法を変えていく。そして、これらのニューカマー(新規参入企業)は、伝統的なビジネスモデルに縛られているライバル企業にとって大きな脅威として立ちはだかりつつある。
破壊は業界ルールを一変させるが、企業の採算性にまで影響を与えるとは限らない。小売業の採算性はもっぱら、店舗のマージン率(粗利益率)と在庫回転数という2つの要素によって決定される。
たとえば、経営が順調なデパートの場合、マージン率は約40%、在庫回転数が年3回というのが平均的だろう。このような数値を達成しているということは、在庫における投資利益率は年120%であることを意味している。



