事業が絶好調でもリスクはなくならない

 何をやってもうまくいく。こんなときはリスクなどどこ吹く風だ。市場シェアがますます拡大し、増収増益に沸く企業には、楽観主義が満ちあふれる。従業員の数はうなぎ登りに増え、事業は拡大の一途をたどる。

「さあ、胸が躍るような、新しいチャンスを見つけよう」。バラ色に包まれた企業には、未来すら光り輝いて見える。ポップスを気取れば、さしずめ「まばゆすぎて、サングラスがないとクラクラしてしまう」といったところだろうか。

 ちょっと待ってほしい。マネジャーたる者、このような右肩上がりのときこそ、いつにもまして危機の予兆に注意を払わなければいけない。

 成功には「光」と「影」が同居している。影の部分には、脅威こそ見えないが、リスクの種が人知れず潜んでいるものだ。その芽を吹き出させるのは、何も競合他社や規制当局といった社外事情だけとは限らない。ほかならぬ社内事情かもしれないのだ。

 売上高、利益ともに絶好調であるときは、怖いもの知らずといった空気が社内に広がる。このような雰囲気だからこそ、大胆かつ斬新なアイデアが生み出され、顧客の顔も満足げにほころぶというものだ。しかしその一方で、良からぬ慣行に苦言を呈する者はその口を封じられてしまう。

 好調の波に乗って注文が矢継ぎ早に舞い込むようになれば、それを処理するために、新しいコンピュータ・システムに投資する必要も生じる。このような成長は祝杯をもって迎えたいものだが、現実は、新しいテクノロジーを導入するとき、よくある失敗に足をすくわれてしまう。

 結論から言えば、成功企業のマネジャーは襟を正さなければならないということだ。あいにくのこととはいえ、成功が呼び水となって「どのくらいの危険度を抱えるようになったのか」(risk exposure)を確かめるくらいのことはしてほしい。

 もちろん、リスクに悪玉のレッテルを張ろうというつもりは毛頭ない。それどころか、リスクを負うことなく発展できる企業など、ほんの一握りにすぎない。

 いわんや、ソフトウエアや金融サービスなど、経営環境の激変のさなかにある業界では、それ相応のリスクを負う覚悟がなければ、市場における現在の地位を維持することすらできない。

 だからこそ、マネジャー、とりわけわが世の春を謳歌している企業のマネジャーは、危機の予兆に絶えず神経を研ぎ澄ませておく必要があるのだ。