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トヨタ生産方式をなぜ100%再現できないのか
トヨタ生産方式は、トヨタ自動車(以下トヨタ)の卓越した業績の源泉であると喧伝されてきた。
このトヨタ生産方式の独特な手法、たとえばカンバン方式やQCサークルは、他社でも広く導入されている。事実、ゼネラル・モーターズ、フォード・モーター、クライスラーといった世界的な自動車メーカーは、トヨタ生産方式を真似た生産システムを独自に開発しようと、本格的に取り組んできた。航空機や重工業、消費財や生産財など、さまざまな産業でもトヨタ生産方式の導入が試みられてきた。
トヨタは驚くほどオープンにそのノウハウを披露してきた。しかし不思議なことに、上手に再現できたメーカーは皆無である。数千という企業から数十万人ものマネジャーがトヨタの工場(もちろんアメリカも)を訪問したが、トヨタに匹敵するような成果を上げることはできなかった。
これにいら立った訪問者たちは、トヨタの 成功の秘密はその文化的なルーツにあるに違いないと考えた。しかし、これはまったく的外れである。同じ日本企業であっても日産自動車や本田技研工業は、トヨタの水準に達していない。また1999年、トヨタは北アメリカ地域だけで100万台以上もの乗用車、ミニバン、軽トラックを生産しているが、世界各国でトヨタ生産方式を例外なく採用しており、しかも成功している。
トヨタ生産方式の分析は、なぜこうも難しいのだろうか。それは、訪問者たちが工場で見たトヨタ生産方式の本質を、そこで用いられているツールや手法と取り違えてしまうからだ。
したがって、ほとんどの訪問者たちが、トヨタ生産方式のパラドックス、つまり、トヨタの工場における作業や連携体制、生産工程は厳格に規定されているが、その一方で、操業方法は非常に柔軟性と適応性に富んでいることを理解できていない。しかもトヨタは、生産活動と生産プロセスの課題解決に日々取り組んでおり、それゆえ継続的改善とイノベーションが実現可能なのだ。その高い業績は当然の結果と言える。
4つのルールこそトヨタのDNA
トヨタにおける成功の秘密を理解するには、このパラドックスを解明する必要がある。つまり、厳格なルールこそが柔軟性や創造性を発揮させる要因であることを理解しなければならないのだ。これがトヨタ生産方式についての、4年間にわたる大がかりな調査研究の結論である。なおこれは、日欧米にある40以上の工場を調査したものだが、トヨタ生産方式に従って操業している工場もあれば、そうでない工場もあった。
調査対象となった工場の活動内容は、プレハブ住宅、自動車部品、最終組立、射出成形プラスチックからアルミ引き抜き成型などさまざまで、加工工場もあれば、単一製品だけを製造する工場もあった。また、定常的な生産活動にとどまらず、機器のメインテナンス、作業者のトレーニングや管理、ロジスティックスおよびマテハン(マテリアル・ハンドリング〈material handling〉: 工場内の資料の移動・保管などを指す)、さらにはプロセス設計(あるいは再設計)といった間接機能についても研究の対象に含めている。
トヨタを理解しようとするならば、トヨタ生産方式の見えざる手によって「科学者集団」と呼ぶべきものが自然に形成されることを知っておく必要がある。
トヨタでは、何らかの作業規定を決める場合、必ず仮説を立てたうえで検討し、それを後で検証できるようになっている。換言すれば、科学的アプローチが採用されているのである。また、何らかの改善を実行する場合には、問題解決プロセスを1つずつ踏んで進めている。まず現状について詳細に調査・検討したうえで、改善プランを立案することが求められる。これは取りも直さず、提案されている改善プランの仮説検証にほかならない。



