顧客接点で働く社員が業績を左右する

 多くの企業が、実は顧客接点で働く社員たちの力で支えられている。こうした企業が抱える悩みの一つに、どうすれば彼ら彼女らの心にヤル気が芽生えるのか、というものがある。これは当然のことだ。顧客接点で働く社員たちは特別のスキルも持ってはいないし、報酬もさして高くない。仕事の内容はおおよそ単調である。ハンバーガー用の肉を焼いたり、ホテルの浴室を掃除したり、コールセンターで客からの注文を受けたり、倉庫の貨物を出し入れしたりといったものである。

 仕事に変化はなく、昇進のチャンスも限られているため、顧客接点で働く社員のほとんどが定期的に支払われる給料だけを目当てに働いている。会社の長期的業績を気に掛けるどころか、愛社精神といった感情的な絆を結ぶ気などもまったくない。しかし、彼ら彼女らが、会社の収支はもちろんのこと、顧客に与える影響は計り知れない。

 顧客接点で働く社員たちを足手まといのように考えるのは間違いだろう。その多くが、組織に十分な貢献を果たす潜在能力を秘めている。

 たとえば、ホテルチェーンのマリオット・インターナショナル(以下マリオット)は、生活保護を受けていたような人々を、社員やマネジャーに多数採用している。雇われた当初はだれもが経験もなく、社会的規律すら守れない。ところが、いま、そうした社員の多くが優れたパフォーマンスを上げている。

 マリオット以外にも、トヨタ自動卓やペットフードのヒルズ・ペット・ニュートリションのように、勤労意欲が高く、優れた成果を上げる社員のいる企業を見ると、顧客接点で働く社員のマネジメントは、課題であると同時にチャンスであることがわかる。

 マッキンゼー・アンド・カンパニーと企業調査会社のコンファレンス・ボードのスタッフたちで編成されたアナリスト・チームは、過去3年間にわたって、顧客接点で働く社員の活性化に積極的に取り組んでいる企業を調査してきた。この調査では50社の候補企業の中から30社を選んで、詳細な分析が行われた。

 この中には、住宅設備販売のホーム・デポ、サウスウエスト航空、ケンタッキー・フライド・チキンなど、独自のマネジメント手法で知られている企業も含まれている。また、コロラド州のベイル・スキー・スノーボード・スクールやアラスカ州のマックテルのように、それほど有名ではないが、他社の手本となるような社員の熱意と結果を引き出すマネジメント・プログラム、方針、メカニズムを持つところもある。

 この調査の途中、我々のこのチームで、それまで候補にも挙がっていなかったある組織を調査対象に加えるべきだという案が出された。それは海兵隊だった。当初、我々はその提案を採用しなかった。戦闘の指揮官が企業の指揮官に「最前線に立つ人たちをいかに動機づければよいか」などといったことを教えられるはずはないだろう、と考えたからだ。

 しかし、3カ月にわたって海兵隊を観察し、100人近くに面接した後、最前線に立つ人間の心と精神に働きかけるという点では、海兵隊は最も優れた組織であるとの結論に至った。海兵隊は、利益を追い求める組織ではまずお目にかかれない5つのマネジメント手法を用いて、優れた成果を上げていたのである。幸いなことに、この手法は企業にも適用可能である。

 たとえば、その訓練方法を比較してみよう。顧客接点で働く社員に施す教育といえば、現場経験の乏しいインストラクターが、業務手順や方針をかいつまんで講義する程度である。新入社員には、休暇や産休に関する就業規則が書かれた小冊子が手渡され、経営幹部が教育訓練に参加するにしても、顔を見せる程度だ。教育訓練の間、新入社員は不安や退屈しか感じないのが普通である。