従来型ストック・オプションの限界

 執行役員の報酬が取り沙汰されている。執行役員の報酬システムとしてストック・オプションを導入する企業が急増するにつれて、特に、報酬金額と業績の相関性が注目され始めた。

 現在、アメリカ大手企業のCEOに支払われる報酬の約半分がストック・オプションでまかなわれており、他の執行役員にしても、その年俸の約30%がこの方式で支払われている。また、取締役の報酬のうちほぼ半分が、ストック・オプションと自社株の付与となっている。

 このような傾向は比較的新しいものである。1980年代に数々のCEO交代劇があったが、これが大きなきっかけとなって、自社の株価にリンクさせた報酬体系が多くの企業で導入されるようになった。それ以前は、執行役員の報酬は主に給与であり、これに財務目標が達せられた場合に限ってボーナスが支払われていた。つまり、株価は財務目標を達成する能力と相関する、と広く考えられていたのである。

 しかし、数多くの研究者たちから、ボーナスと財務目標と株価の相関性に疑問が投げ掛けられるようになった。たとえば、マイケル C. ジェンセンとケヴィン J. マーフィーが『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌(90年5-6月号 *未翻訳)に寄稿した"CEO Incentives――It's not how much you pay, but how"という論文がよく引用される。ここでは、CEOの報酬と株主利益との間には、ほとんど相関性は存在しないと結論づけている。

 90年代の初頭から、取締役会は株主価値を重視するようになった。そこで、経営者と株主の利害を一致させる最も確実な方法として、執行役員の報酬の大部分をストック・オプションでまかなうことが急浮上したのである。そして90年代半ばに差しかかる頃には、CEOをはじめとするトップ・マネジメントは、自社株やストック・オプションを相当数保有するようになっていた。

 当然のことながら、株式市場が上昇気運に乗るにつれて、執行役員の報酬の相場も上昇した。しかし、CEOの報酬と株式市場に相関があるからといって、高業績が達成される確証はない。相場が上がっているときならば、高業績であろうと平均以下の業績であろうと、ストック・オプションの保有者は利益に浴することになる。

 したがって、従来型のストック・オプションの場合、自社の株価が上昇すればプラスの業績と見なされる。株価が少しでも上昇すれば、ストック・オプションの保有者は、業績の良し悪しに関係なく、報酬にあずかれることになる。

 このような欠点が、95年から97年にかけて株式市場の主要指数が100%近く上昇したことで、白日の下にさらされることとなった。

 行使価格固定方式ストック・オプション(fixed-price options/以下固定価格オプション)を手にした執行役員は、企業の業績のみならず、経営管理の能力を超えた要素――たとえばインフレの抑制や金利の低下などによって加速された長期的な強気相場――によって、いわば「棚からぼた餅」のごとく巨額の富を得ていたのである。株式市場が上昇さえしていれば、いとも簡単に多額の報酬にあずかれることになる。

 97年までの10年間に、アメリカの大手100社の株主たちに還元された利益――配当金プラス株価の上昇分――は、相当な金額にのぼった。それは、平均以下の業績の人ですらストック・オプションから得られる利益があまりにも巨額であったため、かつての企業の報酬システムを擁護する保守派の人々をさえ、ためらわせるほどである。