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IT企業はブランドを軽んじている
IT企業の経営者の間では、市場競争での明暗を分けるのは価格と性能のバランスだという考え方が半ば常識となっている。その一方で、自社製品の大半が瞬く間にコモディティ化する現実にも気づき始めている。
事実、IT業界では、どこのベンダーの製品やサービスも非常に似通ってきている。プリンタしかり、コンピュータしかりである。最新鋭の製品に胸を張れるのは束の間で、競合企業がすかさず追随してくるのは必至だ。しょせん、価格と性能は、競争のスタートラインに立つための切符にすぎない。
それでは、市場で勝ち組と負け組を分けるのは、いったい何か。その一つの答えが、ブランド・マネジメントにある。だが残念なことに、IT企業のトップのほとんど――主に技術部門でキャリアを積んできた人々――は、優れたブランド・マネジメントとは何か、自社のビジネスにどのように役立つのかについて、十分理解していない。大多数がマーケティングを単にモノを売る手法としか考えておらず、ブランディングを広告の一手法かスローガンの類と勘違いしているようだ。ブランドを「金はかかるがその効果は怪しい必要悪」ととらえ、「どこよりも優れた製品をどこよりも安く提供する」というビジネスモデルに反すると考えている。
強いブランドを構築し、その力を持続させる――つまり、顧客にしかるべき価値を約束することを思い描いたうえで、製品開発、製造、販売、サービス、そして広告宣伝の各プロセスはもちろん、顧客の手元に届くまで、その精神を貫くという当たり前の考え方が、受け入れられていないのである。
このようなIT企業には、製品を重視するビジネスモデルからブランドを重視するビジネスモデルへと、転換を図る必要があるのではないか。優れたブランド・マネジメントは、顧客を魅了してやまないパワーを生み出す。そして、新製品開発、チャネル・パートナーとの関係強化、風通しのよい企業文化の醸成、経営資源の有効活用などを促す、頼れる〝味方〟でもある。
一度染みついた考えは、そう簡単に変えられるものではない。だが、何が障壁なのかがわかれば一歩前進できることは、これまでの経験が物語っている。
そこで本稿では、まずITブランドに関しての最も陥りやすい2つの誤解を取り上げて分析する。次に、我々なりのブランドの定義と関連する概念を、IT分野でとりわけ重要な点に着目しながら詳しく解説する。そして最後に、製品中心の発想を捨て、ブランド重視の企業へと舵を取り直すにはどうすればよいのかについて、具体的なアドバイスを示したい。
ITブランドにまつわる2つの誤解
技術畑出身の経営者に「ブランド・マネジメントを重視してはどうか」と水を向けると、十中八九、言下に否定される。それというのも、次のような思い込みがあるからだ。




