*本稿の初出は、Harvard Business Review Nov.-Dec.1991(邦訳『ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス』1992年3月号)であり、本特集のために新訳を施して再掲載した。

企業はマシンではない。「有機体」がゆえに知識がエネルギーとなる

 不確実性の存在のみが確実にわかっている経済下において、永続的な競争優位の源泉の一つとして、企業が信ずべきものは「知識」である。

 大きく変化する市場、多様化する技術、重層化する競争、そして急速に陳腐化する製品。このような状況下で成功する企業とは、新たな知識をたゆまず創造し、それを組織に広く浸透させ、新技術や新製品にスピーディに具現化できるところである。

 これらの企業の行動から「知識創造企業」(ナレッジ・クリエイティング・カンパニー)という姿がくっきりと浮かび上がる。そこでは、イノベーションを絶えず生み出すことがその務めである。

 しかし、「脳力」や「知識資本」に関する話題があまねく広まっているにもかかわらず、ほとんどの経営者が、企業が知識を創造することの本質を把握できていない。ましてや、そのマネジメントの方法については言うまでもない。その理由は、「知識とは何か」「そのために企業は何をすべきか」について、誤解していることにある。

 フレデリック・テイラー(編集部注:「科学的管理」という概念を打ち出した)からハーバート・サイモン(編集部注:「限定合理性」という概念によって1977年にノーベル経済学賞を受賞)に至るまで、欧米のマネジメント観には、「組織とは〝情報処理〟マシンである」という伝統が深く浸透している。

 このような観点に立脚するかぎり、唯一有効な知識とは、形式的で体系立ったもの、すなわち、定量的なデータや規則化された手続き、普遍的原理ということになる。それゆえ、新たな知識の価値を測る物差しも、効率性やコスト、ROI(投資利益率)など、同じく定量的である。

 知識そのもの、そして企業組織における知識の役割については、別の考え方がある。それは、ホンダやキヤノン、松下電器、シャープ、花王、そして日本電気(以下NEC)など、非常に成功した日本企業に共通して見出すことができる。

 これらの企業は、顧客への迅速な対応、市場の創造、短いリードタイムでの新製品開発、新技術による優位性などによって注目されるようになった。その秘密とは、知識創造のマネジメントに対するユニークなアプローチにある。

 欧米の経営者にとって、これら日本企業のアブローチはしばしば奇妙に、ときには理解しがたいものに見える。次のような事例に考えを巡らせてみてほしい。