持続可能なビジネスモデルへの移行

 多くのグローバル企業がサステナビリティ目標を公約として掲げてきた。ほとんどの場合、こうした約束を果たすには、デジタル技術やAIによって引き起こされた変革に匹敵ないしは凌駕するレベルまで、ビジネスモデルや組織構造を変革する必要があるだろう。

 少数の選りすぐりの先駆的企業は約束から行動へと移り、企業がサステナビリティを目標とするだけでなく、ビジネスモデルの原動力たりうることを実証している。

 デジタル・トランスフォーメーション(DX)を主導したのは大多数がシリコンバレーの企業だったが、それとは異なり、サステナビリティの先駆的企業の多くは欧州、中南米、アフリカに拠点を置いている。

 筆者らはそうした先駆的企業の10社以上を研究対象とし、そのうちの数社については詳細な分析を行った。イタリアのエネルギーグループであるエネル、スイスのセメント大手ホルシム・グループ、モロッコのリン酸塩・肥料大手OCPグループ、ブラジルの製紙・パルプ会社スザノなどである。いずれもイノベーションに成功していることで知られている。こうした企業がサステナビリティへの道のりで考え出したソリューションは、組織のイノベーション能力の開発から得た知見を活かしたものである。

 大企業がイノベーションに取り組むのと同様に、サステナビリティのパイオニアを目指す企業は3つの根本的な葛藤に直面している。すなわち、長期的なサステナビリティビジョンを維持しつつ短期的な財務目標を達成すること、システム全体の変革を進めつつ地域レベルで人々の関与を保つこと、そして外部との協働を受け入れ強力な内部統合を維持することである。

 筆者らが研究した先駆的企業が総じて変革型イノベーションを通じて気づいたように、こうした葛藤に関しては意図的に対処することが欠かせない。そうすることで、持続可能なビジネスモデルへの移行が成功する可能性が高まる。

 本稿では、筆者らの研究結果をもとに、この3つの基本的課題に対処するために企業が用いることができる具体的な実践方法を明らかにする。

[戦略の課題]
具体的な道筋を明らかにする

 サステナビリティを経営課題として掲げると公言するCEOはもはや珍しくない。しかし、筆者らが研究対象とした企業のトップチームはさらに踏み込んでいた。自社のステークホルダーにとって重要な目標を具体的に挙げ、その達成に向けてどのようにリソースを投入すべきかに言及していたのだ。

 その一例がホルシムだ。同社はサステナビリティが戦略として成り立たない地域の事業を売却もしくは分社化し、資金調達をサステナビリティ目標に合わせる枠組みを確立した。この2つの行動により、気候、循環型経済、水と自然、人と地域社会という4つの主要なサステナビリティ目標に向けて具体的な投資に充てる資金を生み出した。

 サステナビリティへのロードマップをより具体化するため、ホルシムは中期目標の設定に力を入れた。たとえば、科学に基づく目標設定イニシアティブ(SBTi)の「Business Ambition for 1.5℃」キャンペーンに参加した最初のグローバル建材会社となった。これは2030年に向けた中間目標を検証する取り組みだ。