「温故知創」の哲学でゼロイチのビジネスを創造

 成長が著しくライバルも多い中古モバイル端末市場で、ニューズドテックが台頭したのは、「エイジングケア」という新たなコンセプトを生み出し、着実に実行しているからだろう。その原動力となるのは、事業の根幹に据える「温故知創」の哲学だと粟津氏は語る。

「小さい頃からフロンティアが好きで、誰もやったことがないことに挑戦した偉人の伝記をよく読んでいました。『ゼロイチ』で何かを生み出したいという思いが強かったため、好きな言葉である『温故知新』を一歩進めて『温故知創』を掲げています」

ニューズドテック
代表取締役社長
粟津浜一
Hamakazu Awazu
筑波大学大学院理工学研究科卒業後、大手電機メーカーに入社し、新商品・新技術の研究開発に従事。2009年、中古携帯端末の売買事業を展開するアワーズ (現ニューズドテック)を創業、社長に就任。2017年に業界団体「リユースモバイル・ジャパン」を立ち上げ、会長に就任。2022年に現社名への変更を行った。

 そうしたチャレンジ精神が、モバイル端末の常識だった「使い捨て」のビジネスモデルに疑問を抱かせた。日本人が大切にしてきた「もったいない」の精神と組み合わせることで、新たな市場を切り開けると確信したと粟津氏は振り返る。

「2009年に起業してから、ドラッカーの提唱した『卓越性』を追求し続けてきました。1台の端末を何度も再生して『使い切る』循環構造の確立によって、『使い捨て』だったモバイル端末の価値を再定義し、新たなモバイル活用のあり方を社会に提示できると考えたのです」

 興味深いのは、理念が先走りがちな環境論ではなく、限られた資源を『使い切る』ことが発想の起点だったことだ。「欧州はサーキュラーエコノミー(循環経済)に熱心ですが、実際に現地の人たちと話すとけっして理念先行ではなく、必要に迫られて推進していることがわかります。モバイル端末も、いまは足りなくなる切迫感がありませんが、このまま『使い捨て』を続けたら、必要な台数が確保できなくなる可能性も出てくるでしょう。社名にもその思いを込めました。つまり新品(NEW)と中古(USED)の垣根をテクノロジーでなくし、『使い切る』循環構造にすることで、サステナブルな未来を切り開きたいと考えています」

 モバイル端末を「使い切る」循環構造が、既存市場を破壊することなく、その外側に新たに生まれる非ディスラプティブな領域にあることも、粟津氏が重視する点だ。それは、氏の経験にも結びついている。

「私の実家は毛織物関連の会社で、周辺は織物産業の集積地でした。しかし、1970年代に起きたオイルショックによって地域が一気に衰退し、夜逃げが横行したのです。その時に味わった恐怖心から、既存市場と共生できるビジネスを展開したいという思いが強くあります」