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リソース、事業展開、組織構造には整合性が必要である
多角化経営を行う企業のほとんどは、単に個々の事業を寄せ集めた力を発揮しているにすぎない。経営陣も、個々の事業レベルでいかに競争優位を確立するかに関する理解は深めつつある。しかし、複数の事業にわたる競争優位となると、はなはだ心もとない。
たしかに経営陣は、取締役会や資本市場から価値創出への厳しい圧力を受けている。しかし、こうした圧力が全社(コーポレート)戦略にもたらした影響を見てみると、ITT【*】のような悲惨な例が目につく。同社では価値の創出どころか、価値の破壊が起きて立往生している。ITTほどに価値を破壊するところまではいっていないが、さりとて特に創出もしていない企業も多い。
ただし、こうした企業が努力を怠っているわけではない。事実、我々が6年間の研究で調べた50社の中にも、明確な全社戦略を打ち立てようと経営陣が奮闘しているところが多かった。ある企業はコア・コンピタンスをテーマにし、ある企業は社内のポートフォリオを見直し、またある企業は「学習する組織【*】」を作ろうとしている。ただいずれの場合も、経営陣は全社戦略を構成する個々の要素、つまりリソース(経営資源、特に競争優位の源泉)、事業、組織を別個のものとしてとらえていた。各要素を大きく束ねる深い洞察刀が欠落しているのだ。この洞察力が競争優位のエッセンスであり、多角的な活動を組み合わせて統括していくために欠かせないのである。洞察力の有無こそが、卓越した戦略と並みの戦略とを分ける決定的な違いとなるのだ。
企業特有の資産スキル、能力が戦略の方向性を決める
優れた全社戦略は、リソース、事業、組織といった要素を適当に寄せ集めたものではなく、互いに連動させて注意深く組み上げた一つのシステムとなっている。それは、伸ばすべきリソースや参入すべき事業の選択、すべてを実現させる組織づくりなどへの経営陣の意思決定を積極的に導いてくれるものであり、強力なアイデア以上のものだ。
それだけではない。優れた全社戦略では、個々の要素の整合性がうまくとれている。その原動力となるのは、企業のリソースの性質、つまり企業特有の資産・スキル・能力といったものである。企業のリソースこそ、事業展開や組織構造の望ましい姿を描き、両者をつなぎ合わせていくのである(図1「全社戦略のトライアングル」参照)。
企業の優位性を底辺で支えるリソースの性質というものは、一定の振れ幅を持った〝連続体〟の中でとらえることができる。一方の端には高度に専門化したリソースが、他方にはごく一般的なリソースが位置づけられる(図2「リソースの連続体」参照)。
日本の電機メーカーであるシャープでは、オプトエレクトロニクス(光電子工学)の専門的で高度な技術がリソースであり、各事業に競争優位を与えている(連続体では右端に位置する)。他方、アメリカのタイコ・インターナショナル【*】(以下タイコ)はコングロマリット【*】であり、連続体の左端に位置し、汎用性の高い経営スキルとコーポレート・ガバナンスのシステムによって、価値を創出している。
連続体の中で戦略的にリソースを位置づけることは重要である。この中で企業がどの位置を占めるかによって、参入すべき事業分野も決まり、目指すべき組織構造も決まってくるからだ。





